文春オンライン
文春野球コラム

「ボールが白く見えたら打つ」元ベイスターズ・グリエルに打席で何を考えているか聞いた時の答えがすごかった

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/24
note

 メジャーリーグ、ヒューストン・アストロズの主軸としてワールドチャンピオンにも輝いたスーパースターが、2014年の1シーズンだけベイスターズのユニフォームを着てプレイしていたのは、覚えている方も多いのではないでしょうか。

『ユーリ』という愛称で親しまれたこの選手は、私が横浜に在籍した8年間で野球というスポーツの常識とは何なのかを最も考えさせられた1人でした。

 何がすごいって? それは後半にたっぷりお話しするとして、まずは横浜にいた頃、どういった選手だったのか少しだけお話しします。

ADVERTISEMENT

ユリエスキ・グリエル

 2014年シーズン途中、「キューバのスーパースターが横浜に来るらしい」という噂がチームで流れ、それから間もなくしてチームに合流したユリエスキ・グリエル選手。

 来日してすぐの頃は、調整のため2軍の試合に帯同していましたが、時差ボケのせいかコンディションはすぐれない様子。

 ですが、いざ試合になると獲物を狙う肉食動物かの如く、すさまじい集中力とそこから放たれる打球音は同じプロ野球選手とは思えない程のものでした。

 そんなグリエル選手も試合に出ていないときは、とてもマイペースでベンチではいつもフルーツを頬張っており、「ベンチで何かを食べる」という習慣がなかった当時の私は、「若手の俺が何か食べていたら絶対怒られるな」と、そんな事を思っていたのを今でも思い出します。

 周りも日本人ばかりで、専属の通訳はいたものの少しでも早くチームに溶け込めるように尽力していたのは、先月、現役を引退された石川雄洋さん。

 グリエル選手のポジションは内野、石川さんのポジションも内野。グリエル選手が加入することによってもしかしたら出場機会を失うかもしれない立場にもかかわらず、そういった配慮ができるからこそ石川さんは、チームにもファンの方達にも愛される人間だったのではないでしょうか。

 まぁ恐らくですが、石川さんは「試合に出られなくなる」みたいな小さいことを考えるような人ではないですけどね。

ボールが白く見えたら……

 私は捕手をやっておりましたので、相手打者はもちろんのこと、自チームの打者も「俺やったらここ攻めるな」とか「どうやって抑えようかな」という視点で見るわけです(もちろん応援しながら)。「弱点」「打者の思考」「投手の能力」ほかにも試合状況や天候など様々な要素はありますが、大きく分けてこの3つの要素で配球を組み立てます。

 ですが中には「弱点が極めて少ない打者」や、「何を考えているのかわからない」という打者がいます。ベイスターズでいうと、宮崎敏郎選手や佐野恵太選手のようなタイプですね。

 日本に来る外国人はその逆で、全ての選手がそうというわけでは無いですが、弱点や考えていることが割とはっきりしている選手が多い傾向にあります。低めの変化球を振らせて高めのストレートで攻める。その逆のパターンも然りです。

 そんな中、当然のように私はグリエル選手を自分ならどう攻めるのか、と考えながら見ていました。「弱点はどこかな」「このカウントの時は何を考えているのかな」とか色んな思考を巡らせるわけなのですが、どう攻めていいか全くわかりませんでした。高めのストレートも打つ、インコースも打つ、若いカウントで低めの変化球を振るときはありますが、追い込まれたらボール球には手を出さない……。

 大抵の打者は追い込まれると変化球にも意識が行くためストレートにはやや遅れ気味になることが多いんです。でも、グリエル選手は相手投手が決めにきた変化球を平気な顔で見逃し、150キロ近いストレートも「待ってました」と言わんばかりにベストなスイングをする。

 不思議に思った私は、打席で何を考えているのか聞いてみたんですよ。

 そしたら衝撃の答えが待っていました。

文春野球学校開講!