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「いつか誰かが見てくれる、いや見てくれないかもしれない。それでもやるんよ」

「だいたい心がぐぐっと病んだりするのは、仕事とプライベートが両方ダメになったとき。仕事の調子の悪さの裏には、プライベートの乱れがあったりすんだわ。うちのお店でしょんぼり飲んでるおっさんの客はみんなそうだべ。そこは野球選手もサラリーマンも同じよ。ウチの元の奥さんは、気立てがよくてめんこい子(注:かわいい子)。サラリーマンやってた頃の会社の後輩なんだべ。んだから、結婚した後も会社の同僚と家族ぐるみで付き合ってな、めんこい子供と嫁つれて、広瀬川で芋煮会だっちゃー来週は蔵王にキャンプだっちゃーて、いぎなり楽しかったんだ。いい思い出よ」

 そんな幸せの時間も、少しばかり店が繁盛し収入が増えて飲み歩いて出会った女に入れ込んだばかりに一瞬にして失った。

「んだから、みんながさ、そういうのを叩く気にもなるのはわかるんけんども。俺からすれば本人が一番反省してんだから。たしかにここ数年のあいつは、なんだかマウンド上でおかしかっだ。よく考えりゃ、ありゃあなんかあった顔だよ(笑)」

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 だから俺は応援すんよ。だって俺はあいつの気持ちわかるっぺよ、と。

「結局、男は周りにガヤガヤ言われようと、自分に一生懸命与えられた仕事をやり抜くしかない。そう思うべ? いつか誰かが見てくれる、いや見てくれないかもしれない。それでもやるんよ」

 そういうと、おんつぁんはテレビを見入った。画面の中では、背番号14が去年とは別人ような吹っ切れた投球を見せていた。

「コロナもあるべよ、養育費も払い終わったしよ。そろそろこの店も店じまいしようかと考えているんだ。あとさ、こないだ久しぶりによ、子供たちが俺に会いたいってよ。へへへ、なあ俺、けっぱったよな?」

 テレビ画面にうつる試合はまだ中盤戦。

 ピッチャー投げました、内角高めのストレート!

 ランナーを背負いしピンチ。けっぱりながら投げている。

「コロナだからな、20時には店閉めっぺよ。さあラストオーダーだ。それ飲んだら、けえった、けえった!」と、おんつぁんが言う。

「このピンチ乗り切ってくれよ。けっぱれ!!」

 おばさんがついでくれた今日一番のとびきり濃いハイボール片手に、おんつぁんも僕らも、生きてく、生きていく。

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