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中日・梅津晃大が掲げる“脱・完璧主義”。2人の“オオノ”が若き右腕の道しるべとなる

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/30
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竜の絶対的エース・大野雄大を見て感じた“スイッチ”

 梅津は屈託のない笑顔で先輩、後輩みんなから愛される一方、なかなかの完璧主義者でもある。昨年まで、先発当日は朝からもう一人の梅津晃大を“演じた”。「先発の日になると朝起きてからモードに入っていました。球場入りするときもそう。アップ中も誰とも話さない。一人で黙々と練習する。当然緊張感が高まってくるので、ロッカー裏とかでよくえずいていました」。確かに、試合当日はピリピリしていた記憶がある。

 ただ、今年はちょっと違う。3月20日のウエスタン・オリックス戦(オセアン)の試合前日。梅津はサインペンを手に取り、帽子のつば裏に「成るようになる」と書き込んだ。

「今まで一度も帽子の裏に書き込んだことはなかったです。よく『甲子園出場』とか『日本一』とかあるじゃないですか? 僕は心で思っていてもそこに書くことはなかった。それが突然書きたくなって……。当日は、ピリピリすることなく、むしろ試合直前までリラックスして、後輩とじゃれ合って。言葉通り『成るようになる』と思って臨んだ。その結果、好投(6回無失点)できたんです」

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 ふざけていないし、決して他人事だとも思っていない。ただ、自信を持って準備をしてきたからこそ、マウンドでは「成るようになる」と思い込み、変に難しく考えるのではなく、堂々と思い切って投げ込んでみようと思った。投球中にはつば裏の言葉を見て、少しだけ肩の力が抜けた。

 よく考えてみれば、あの“オオノ”さんも、そうなのかもしれない。沢村賞に輝いた大野雄大投手だ。

「大野雄さんは試合直前のロッカーでも陽気。とにかく明るい。ギリギリまで大野雄さんなんです。でも、マウンドに行った瞬間に顔色がバチッと変わる。そして見事に結果を出す。簡単に真似することはできないし、大野雄さんのようにはいかないけど、マウンドに行ったらなるようになるでしょ、って勢いも大事かなって」

 将来はメジャー行きを公言する梅津。でも、そのためにはまずチームのエースになることが大前提だ。すなわち、近い将来、大野雄からエースの座を奪わなければならない。絶対的エースとなった大野雄が若き日に吉見一起氏を見て竜のエース道を学んだように、梅津も大野雄の姿を間近で見て、成長していくに違いない。

 昨年のキャンプ中に大野雄にご飯に誘ってもらった。その場にいたのは柳裕也、そしてキャンプ中に2軍へ落ちた加藤匠馬だった。心優しい左腕は、励ましの意味を込めて後輩を食事に誘った。気遣い、包容力。大野雄のあたたかい人間性に触れ、自分も後輩へ惜しみなく伝えていこうと思った。今年のキャンプでは松田亘哲、石川翔、垣越建伸、森博人、近藤廉らにアドバイスを送るシーンを何度もみた。特に、同期入団の垣越にはウエイトトレーニングのメニューを一緒に行い、再び支配下へ戻ることをサポートしているところだ。

 今季初登板は5月3日のDeNA戦が有力。今年の目標は「規定投球回」を達成し、「2桁勝利」をあげることだ。少し出遅れはしたが、絶望的ではない。ここからでも十分巻き返すことはできる。“脱・完璧主義”を掲げる若き右腕が「成るようになる」の精神でマウンドを支配し、5位に沈むチームを上昇気流に乗せる。

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