そしてコロナ禍が訪れる。緊急事態宣言が発令され、多くの対局が中断になった。あらゆるイベントが中止になり、将棋界の時が止まってしまったかのようだった。
その中、山崎八段は弟弟子の糸谷八段とオンラインでぶつかり稽古を繰り返したという。この二人は4月に開幕した第4回ABEMAトーナメントでも同じチームで戦う。タイトル獲得やA級昇級などで先を走る弟弟子の存在が山崎八段のパワーアップの源になっていることは想像に難くない。
寒い日に熱い戦いが繰り広げられた
1回目の緊急事態宣言は解除され、6月に順位戦が開幕した。
山崎八段は、前期降級の危機だった順位戦B級1組で初戦から3連勝。そして4戦目にここ数年勝てなかった木村一基九段相手に会心の指しまわしを見せて完全復活を印象づけた。
その後も永瀬拓矢王座をくだすなど、星を伸ばして2020年を終える。
2021年1月14日。山崎八段は昇級を目指して同世代の松尾八段と関西将棋会館で対戦した。
この日は筆者も同所で対局をしており、松尾八段がひざ掛けを使っていたのを何故かよく覚えている。
寒い日に熱い戦いが繰り広げられた。総手数177手。終局は深夜1時18分。山崎八段が激闘を制した。ファンの間で2020年度の名局賞の一つにあげられるほど素晴らしい戦いだった。筆者も対局後に宿泊先のホテルでスマホにかじりつくようにして中継を観た。
心の中でそっとお祝いを告げて
同世代との激闘を制した山崎八段は2月4日、A級昇級をかけて久保利明九段と関西将棋会館で対戦した。
この日もたまたま筆者は同所で対局しており、動向が気になっていた。
この対局に山崎八段は敗れる。終局は深夜0時18分だった。
しかしその20分後、競争相手の郷田九段が敗れて山崎八段の昇級が決まった。郷田九段に勝ったのは松尾八段。なんという巡り合わせだろうか。同世代が昇級の後押しをしたのだ。松尾八段としても残留を決める大きな1勝だった。
筆者はその日、順位戦の昇級を目指して臨んだ一戦に敗れた。残念だったし無念だったけれど、同世代のスターがようやくつかんだA級昇級は嬉しかった。
コロナ禍でなければお祝いに行きたかったが、筆者は心の中でそっとお祝いを告げてホテルへ戻った。
A級では苦戦も予想されるが、ヒーローは遅れてやってくるともいう。
皆さんと一緒に山崎八段のA級での戦いぶりに注目したい。
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遠山雄亮六段のコラム、そして山崎隆之八段のインタビュー「“魅せる将棋”で初のA級へ『齢40にして強くなる』」は、文春将棋ムック『読む将棋2021』に掲載されています。
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