山崎隆之は同世代のスターだ。

 芸術的な将棋と端正なルックス、そしてファンに愛されるキャラクター。スターになる資質を兼ね備えている。

 同世代は山崎八段をこの世代の名人候補とみていた。

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この世代から14人の棋士が誕生した

 山崎八段がプロ入りしたのは弱冠17歳。それを追いかけるように松尾歩らが続々とプロ入りを果たす。傑出した存在は世代の競争を生み出し、活性化を促す。結果的にこの世代から14人の棋士が誕生した。同世代の筆者も、山崎八段のプロ入りから約8年後にようやくプロ入りを果たす。

 17歳でプロ入りした山崎だが、約10歳上に強力な世代がいた。羽生世代だ。

 羽生善治九段(1970年生まれ)の前後1学年には、永世名人の森内俊之九段、永世棋聖の佐藤康光九段、丸山忠久九段、郷田真隆九段、藤井猛九段など18名の棋士がいていまも将棋界を引っ張り続ける。

 山崎八段はその壁に跳ね返され続けた。

 タイトル挑戦1回、棋戦優勝8回、竜王戦1組通算9期。どれも一流の証だ。しかし、どうしてもタイトル獲得には届かず、名人どころか順位戦ではA級も遠かった。

順位戦A級への昇級を決めた山崎隆之八段 ©中田絢子

 4学年下の渡辺明名人にも行く手を阻まれ続けた。

 さらに約7歳下、名人3期を誇る佐藤天彦九段(1988年早生まれ)世代が大挙してプロ入りし、大波となって山崎八段に襲いかかってきた。佐藤(天)九段の前後1学年には、なんと21名もの棋士がいる。広瀬章人八段、糸谷哲郎八段、中村太地七段などタイトル獲得経験者が4名、A級経験者も4名と活躍が目立っている。

 山崎世代は活躍の場を奪われ続けた。この世代は実績的には谷間の世代と呼ばれても仕方ない。タイトル獲得者はゼロ。A級に在籍した人もいなかった。山崎八段自身も2019年度は不振を極め、B級1組順位戦では降級危機。初めて年度単位で勝ち越せなかった。

才気あふれる指しまわしにボロボロに

 関西の奨励会で驚異的なペースで昇級昇段を重ねる山崎少年の名は、関東の奨励会に在籍する筆者にも伝わってきた。

 山崎がプロ入り直前の時に一度だけ練習将棋を指す機会があった。才気あふれる指しまわしにボロボロにされ、才能の違いを感じさせられたものだ。

 山崎八段と初めて公式戦で対戦したのはNHK杯戦の本戦だった。

 筆者がプロ入りしてすぐのことであり、気合いの入った対局だったが残念ながら実力差を見せつけられた。