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26歳、プロ8年目の戦力外通告……

 13年と14年にはそれぞれ1試合ずつ1軍出場した鬼屋敷が最も輝いたのが15年春である。満身創痍の阿部が一塁手へコンバートされベテランの相川亮二をFA補強したものの、89年生まれの小林と“ポスト阿部”の負担をワリカンできる同世代のライバルを育てたいチーム事情。鬼屋敷はこれまで1人でやってきた自主トレを止め、先輩捕手のカトケンや元巨人の鶴岡一成との沖縄合同自主トレへ同行する。長年、絶対的レギュラー阿部のサポート役をこなしながらも、第2・第3捕手として修羅場をくぐり抜けてきた彼らから1軍選手の考え方を学ぶために。ここが勝負とばかりに春季キャンプで猛アピールを続け、当時の原監督からMVPに選出される鬼屋敷。イースタンでは課題の打撃で進歩が見られ、14年打率.160→15年.264と一気に1割以上打率を上げてみせた。しかし、故障にも苦しみ1軍出場は0。それ以降、1軍の舞台に立つことはなかった。

 8年目の今季は背番号64から95へと変更。まさに崖っぷちで迎えたシーズンだったが、出番は3軍戦が中心で2軍でもわずか2試合の出場に終わる。そうこうしている内に93年生まれの宇佐見真吾が台頭。巨人若手ではNo.1と言っても過言ではないパワフルな打撃を武器に1軍定着した売り出し中の大卒2年目捕手だ。気が付けば、5年前は鬼屋敷と河野の次代の正捕手争いと言われていたのが、今や守備の小林と打撃の宇佐見の一騎打ちである。プロ野球はシビアな世界だ。毎年、次から次へと自分を脅かす若い人材が入ってくる。2軍で泥にまみれる若手選手の給料は、同年代の会社員とたいして変わらない年俸数百万円。カネも実績もない20代前半の男はこの世界で一番無力だろう。どんな仕事も1軍に上がってナンボ。ちくしょう、チャンスさえあれば俺だって。そうこうしている内に容赦なく過ぎ行く青い春。

 2017年10月4日、26歳の鬼屋敷は巨人から戦力外通告を受け、翌日のスポーツ新聞各紙ではトライアウトには参加せず現役引退が報じられた。その記事を目で追いながら、3年前の「1軍に出たいですよ。出ないと稼げないですから」と笑っていたインタビューのこと。さらにさかのぼると初めてファン招待が実施された8年前のドラフト会議で指名の瞬間を目撃し、いつかこの鬼屋敷が正捕手になればいいなと帰り道で願ったことを思い出した。

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 ファンは応援していた選手が引退すると、球場でその背中にもう「ガンバレ」と言えなくなる。だから、これが最後だ。俺たち、もう終わっちゃったのかなあって、まだ始まっちゃいないよ。26歳じゃねえか。

 第2の人生、頑張れ鬼屋敷。いつかまた、どこかで。
 
 See you baseball freak……

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