最後まで長打力不足に悩まされた2017年の巨人

「過去と闘って何が悪い! 昔を超えようとして何が悪い!」

 現WWE所属のプロレスラー中邑真輔はかつてリング上でそう叫んでみせた。すべてのエンターテインメントはそれぞれのジャンルが持つ、美しき過去の記憶との闘いだ。これがプロ野球の場合なら、記憶だけじゃなく昔の記録との比較も追加されるだろう。例えば、巨人の場合は2年前のペナント終盤にある数字が大きな話題となった。「チームに20本塁打以上0名は1960年以来55年ぶり」という不名誉なレコードである。

 長嶋茂雄、王貞治、原辰徳、松井秀喜、高橋由伸、阿部慎之助と各時代に球界を代表する長距離砲がいた球団。04年には“史上最強打線”と呼ばれたメンバーがチーム本塁打259本のシーズン日本記録を樹立。それが今季はわずか107本塁打、またもや気が付けば静かに「20本塁打以上の選手0名」である。チーム最多はケーシー・マギーの17本、ちなみに20本塁打以上の打者が不在なのはセ・リーグで巨人だけだ。何事も騒がれている内が花。もはや、長打力不足という現状を当たり前のこととして、ほとんど突っ込まれなくなったジャイアンツ打線には寂しさを覚えてしまう。

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 そうか9月だけで6度の完封負けか……ってシビアな話題はシーズンオフの総括コラムでしよう。今は泣いても笑っても残り3試合、3位DeNAとはゲーム差0。目の前の熾烈なCS争いに酔いしれたい。この時期、球場に行くと妙な寂しさがある。まるで長年勤めた会社から転職する間際のような気分だ。ここに出勤するのもあと数日。「あれだけ上司に怒って由伸采配に文句を言っていたのに、いざ終わるとなると寂しいもんだな。馬場ふみか似のビールの売り子とはあと何回会えるだろうか」なんつって感傷に浸るあの感じ。今週前半、東京ドームでそんなセンチメンタルな気分を吹き飛ばしてくれたのは、菅野智之とマイルズ・マイコラスの快投だった。

今季、セ・リーグで他を圧倒する成績を残している菅野智之 ©文藝春秋

チームを救った、94年三本柱クラスの菅野・マイコラス・田口

 26日のヤクルト戦は菅野が6回2安打無失点で危なげなく12球団トップの17勝目を挙げ、翌27日の中日戦では中4日にもかかわらずマイコラスが9回途中まで139球1失点の熱投で自己最多の14勝目、187奪三振はこちらもリーグトップを独走。さらに4年目サウスポー田口麗斗は勝率.813と先輩菅野を抑え、最多勝率のタイトルを広島勢と競っている。なんでこの3人がいて優勝争いできなかったんだ……なあ山口俊よ……というヘビーな問題は置いといて、チームに13勝トリオが誕生したのは1990年以来27年ぶり。もはや、この3人の安定感はあの1994年に長嶋巨人を日本一へ導いた伝説の三本柱を彷彿とさせると言っても過言ではないだろう。さっそく過去と今を比較してみよう。

1994年
斎藤雅樹 30試合(206.1回)14勝8敗 防御率2.53 144三振
桑田真澄 28試合(207.1回)14勝11敗 防御率2.52 185三振
槙原寛己 29試合(185回) 12勝8敗 防御率2.82 153三振

2017年
菅野智之  25試合(187.1回)17勝5敗 防御率1.59 171三振
マイコラス 27試合(188回) 14勝8敗 防御率2.25 187三振
田口麗斗  25試合(166.2回)13勝3敗 防御率2.92 119三振

 ちなみに94年はこの3人がリーグ防御率2位〜4位にランクインし、キャリアの絶頂期を迎えていた当時26歳の桑田が最多奪三振と最優秀選手賞に輝いた。ペナントでは終盤まで中日との激しいデッドヒートを繰り広げ、ミスターは127試合目の先発に平成の大エース斎藤、128試合目はMVP右腕桑田、129試合目はミスターパーフェクト槙原を当然のように起用。すべては三本柱とともに。そして130試合目、ナゴヤ球場での勝った方が優勝の“10.8決戦”も槙原、斎藤、桑田のリレーで制したのは今でも語り草だ。