俳優でタレントの大泉洋がきょう4月3日、48歳の誕生日を迎えた。折しも先週末より主演映画『騙し絵の牙』が公開中だ。この映画は昨年6月に封切予定が、コロナ禍により延期されていた。

大泉洋 ©文藝春秋

『騙し絵の牙』は大泉を「あてがき」した作品 

 原作となる塩田武士の同名小説は、最初から映像化を念頭に置いて、主人公に大泉を想定して書かれた。いわゆる「あてがき」だが、舞台や映画・ドラマなどならともかく小説では珍しい。もともとは大泉が本の情報誌『ダ・ヴィンチ』の表紙に出るたび、担当編集者に、映像化されたら自分が主演できるような本はないのかと訊いてくるので、編集者がいっそ大泉のイメージで小説をつくってしまおうと企画したという。

 この難題を引き受けた塩田は、執筆にあたり大泉を徹底的に研究した。とくに参考になったのはバラエティ番組だったらしい。過去の出演番組を可能なかぎりチェックして気づいたのは、大泉には自らいじることといじられることを瞬時にスイッチして、場の空気を一気に持って行ってしまうところがある、ということだった。それゆえ、ストーリーに人物を乗せると、非常に動かしやすかったという(※1)。

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 瞬時に役割を切り替えられるのは、本人の言葉を借りれば、常に自分のことを観客の目線で見ていて、《大泉洋という人がどう動くと面白いのかという考え方しかできない》からなのかもしれない(※1)。

映画『騙し絵の牙』は3月26日より全国で公開開始 公式ホームページより

大泉が持つ「マイナーに居直らないバランス感覚」 

 今回の映画で、大泉演じるカルチャー雑誌の編集長・速水は、社内の派閥抗争に巻き込まれながら誌面リニューアルを推し進め、意表を突く企画を次々と打ち出していく。速水はそれまでにもいくつもの出版社を渡り歩きながら、妥協しない雑誌づくりで一部で支持を集めてきたという設定だ。そんな彼の雑誌について劇中、ある登場人物が「マイナーに居直らないバランス感覚があった」というような言い方で評価する。この点は、地方の番組からじわじわと全国で知られるようになり、東京進出後も地元での活動を大事にしている大泉自身にも通じるかもしれない。

 大泉はよく知られるように北海道出身で、北海学園大学に在学中の1995年、ローカルタレントとして芸能活動を始めた。最初の仕事は、地元テレビ局・HTBの『モザイクな夜V3』という深夜番組の突撃レポーター。抜擢したのは、番組制作にかかわっていたタレント事務所・オフィスキューの社長の鈴井貴之と、副社長の鈴井亜由美である(役職はいずれも当時)。もっとも、彼を発見したのは2人ではなく、鈴井貴之の主宰する劇団の女の子だった。彼女は、北海学園大学の演劇研究会の定期公演で初めて大泉を見て、《ロン毛を一本に縛っていて、しかも縮れ毛なんです。目遣いとか気持ち悪くて、演技の質も普通の役者と違ってなんかヘンなんですけど、私ああいう人好きなんですよね》と、鈴井亜由美に伝えたという(※2)。