1ページ目から読む
3/4ページ目

ドラマ主演で得た「バラエティでの活躍の場」 

 2006年には単発ドラマ『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』(フジテレビ系)で主演を務めた。企画したプロデューサーの久世光彦がクランクイン直前に死去、撮影が終わったあとには出演者の不祥事により放送が延期されるなど紆余曲折はあったが、大泉にとって大きなエポックとなる。主役になればドラマの宣伝でバラエティ番組に出演する機会も増えた。彼にとって番宣は、本領の笑いの力を試す格好の場でもあるという(※5)。

©文藝春秋

 学生時代には大泉が舞台に登場すると、笑うシーンでなくても必ず客席から笑いが起きたという。本人は後年、その理由を、《きっとぼくは本当の意味で役を演じてなかった。誰を演じていても大泉洋の素がそのまま出て》いたからだと省みている(※3)。しかし、東京で俳優を続けるうち、シリアスな役もこなすようになり、いまやドラマや映画に彼が出てくるだけで笑う人はいない。

 NHKの大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)では坂本龍馬の友人で、非業の死を遂げる近藤長次郎を演じた。松田龍平とのコンビで探偵を演じた映画『探偵はBARにいる』(2011年)では日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞する。40歳をすぎてからは、『青天の霹靂』(2014年)では売れない手品師、『恋は雨上がりのように』(2018年。いずれも映画)では冴えないファミレス店長と、中年男の哀愁を感じさせる役も目立つ。

ADVERTISEMENT

「渥美清に通じるアンビバレンツな表現のできる稀有な俳優」

 ノンフィクションを原作とした映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)では、進行性筋ジストロフィーという難病でほとんど体を動かせない男性を演じた。同作の監督・前田哲はこのときの演技から大泉を《哀しみの中にも可笑しみを、喜びの中にも哀しみを……という、国民的大スター渥美清に通じるアンビバレンツな表現のできる稀有な俳優》と評した(※5)。

『こんな夜更けにバナナかよ』では進行性筋ジストロフィーという難病患者を演じた

 三谷幸喜の作品にも、映画『清須会議』(2013年)や大河ドラマ『真田丸』(2016年)などたびたび出演し、昨年の舞台『大地』では主演を務めた。コロナ禍による緊急事態宣言の解除後に行なわれたこの公演で、大泉は演劇が禁じられた架空の国の収容所を舞台に、小ずるく振る舞った果てに最後に手痛いしっぺ返しを食らう主人公の役者を好演した。さらに昨年暮れにはNHKの紅白歌合戦の白組司会者に抜擢され、総合司会の内村光良にいじられたりしつつ、無観客のなかステージを盛り上げた。

 芸能活動以外にも、札幌で流行っていたスープカレーを全国に広めるべく、2004年に自らのプロデュースによりレトルト食品にしてヒットさせたこともあった。案外、商才があるのかもしれない。そうした一面は、ドラマ『ノーサイド・ゲーム』(TBS系、2019年)での弱小ラグビーチームをビジネスパーソンの知見から建て直そうとする監督の役や、今回の『騙し絵の牙』の編集長役にも活かされているような気がする。