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 広瀬すずがその強烈なエネルギーを生の舞台で爆発させた、野田秀樹演出の『Q』は、観客や批評家の絶賛と、長い歴史で初めての、初舞台俳優への紀伊國屋演劇賞受賞をもたらした。筆者も何度かその舞台を観劇したが、顔も見えないほどの遠くの席まで届く広瀬すずの声とエネルギーに、この女優の本質は顔ではなく生命力にあることを改めて感じた。

 だが作品によっては、その強烈なエネルギーが役柄と相反し、観客に反発をもたらすこともある。朝ドラの『なつぞら』にせよ、SNSにはまるで広瀬すずのエネルギーが水面に波紋を起こすように、彼女に対する称賛と反発が同時に渦巻く。

「こんな綺麗な顔ならどんな不幸があっても生きていけるでしょと思ってしまう」という捨て台詞のようなツイートが何千いいねもされることもある。だがそれは顔立ちというより、広瀬すずが放つ過剰なエネルギーに対する反発のように思える。

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広瀬すず ©文藝春秋

 広瀬すずもまた、橋本環奈とは別の意味で両刃の剣のような危うさを抱えた「強すぎる」女優なのだ。

橋本環奈と広瀬すずの、あまり知られていない共通点

 広瀬すずはテレビドラマ『anone』でホームレスの少女ハリカを演じる時、目が隠れるほど前髪を伸ばした。それは強すぎるエネルギーを画面に出さないための彼女の役作りだったと思う。

 今回『ネメシス』で天才探偵助手を演じるにあたり、広瀬すずは自ら監督に提案して髪にパーマをかけたと『HOT  PEPPER』のインタビューで語っている。

 ドラマの役の衣装を着た広瀬すずを見るとよくわかるが、それは美しく見せるためにかけたパーマではなく、汚れたジャケットにブーツを履いて走り回る探偵助手・アンナが髪型に無頓着であることを表現するためのパーマだ。広瀬すずは今回の探偵助手美神アンナ役を、息を呑むような美少女ではない、別の人物像として作りあげようとしている。

『ニノさん』で2人並んだ橋本環奈と広瀬すずを見ていると、親友を演じるという2人のキャラクターをドラマの中で鮮明に役割分担するために、広瀬すずのパーマが視覚的に重要であることがよくわかる。広瀬すずはたぶん、「甲乙つけがたい美少女が2人」という絵にはしたくなかったのだろう。

橋本環奈 ©文藝春秋

 橋本環奈と広瀬すずには、実はあまり知られていない共通点がひとつある。それは是枝裕和映画への出演である。橋本環奈と言えば、中学3年生の福岡アイドル時代に路上で撮られた「奇跡の一枚」の写真でスターダムに駆け上がった伝説が有名だが、実はその2年も前に是枝裕和監督作品『奇跡』の「早見かんな」という役名で映画初出演をしているのだ。広瀬すずの出世作が『海街diary』の「浅野すず」役だったことと重なる奇妙な偶然である。 

 ドラマ『ネメシス』は、突出した長所をもつがゆえにその反動も抱える2人の同世代の女優の初共演となる。火薬燃料がそうであるように、才能はロケットを打ち上げるエネルギーにも、作品を破壊する爆弾にもなりうる。起きるのはプラスの化学反応か、それとも破壊的な爆発か。第3話から始まるという2人の共演に注目したい。