圧倒的なオーラを持つ広瀬すず
広瀬すずも実は、橋本環奈と同じように、若手トップ女優としては意外なほどラブストーリー作品が少ない。『なつぞら』では結婚から出産も演じたし、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』では片想いを演じたが、いずれも物語の中の一場面であってメインストーリーではなかった。
岩井俊二監督作品『ラストレター』は、広瀬すずという女優のある一面を最もよく描いた映画かもしれない。広瀬すずが演じる遠野未咲はものすごい美人という設定で、森七菜が演じる妹がコンプレックスを抱く対象として描かれている。
普通はこの設定で映画を撮るなら、妹役に森七菜のような新人美少女女優を配役しない。実際、岩井俊二脚本をそのまま中国映画として撮り直した『チィファの手紙』では、妹役は姉に対してずっと地味な顔立ちの子役が演じているのだ。
だが『ラストレター』の中で、どう見ても自分も美少女である森七菜演じる妹がさんざん気を持たせたあとに、マスクを外して顔を見せる姉の遠野未咲に神木隆之介演じる鏡史郎は雷に打たれたように恋に落ちる。魂を抜かれたように呆然と姉を見送る主人公を見ながら、森七菜演じる妹は「美人でしょう、妹が言うのもおかしいけど」と寂しげに微笑み、神木隆之介演じる史郎は「……すごいね」とつぶやく。
森七菜は『ラストレター』撮影後のインタビューで映画を振り返り、「私が感じたのは、広瀬さんがいるその雰囲気だけで、映画自体を支配してしまうような、圧倒的な存在感やオーラがあるということ」と答えている。
彼女は映画を支配してしまう、という森七菜が18歳で語った言葉はもしかしたら、これまで語られた中で最も的確な広瀬すずについての女優論かもしれない。
当たり前の話だが、森七菜も息を呑むような美少女であり、『ラストレター』は彼女を一躍若手トップ女優に押し上げ、多くの新人賞をもたらした作品だ。にも関わらずあの「姉は美人」シーンが観客に違和感なく成立しているのは、広瀬すずと森七菜の顔立ちに差があるからではなく、森七菜が語る通り、説明のつかない「映画を支配する力」が広瀬すずにあるからだ。
水彩画のように淡く美しい雰囲気をまとう森七菜に対して、広瀬すずの放つ空気は鮮烈で濃密だ。鑑賞されて評価されるという受身の美ではなく、自分のエネルギーを相手の目の中にねじり込んで支配してしまうような強烈な生命力が広瀬すずにはある。