文法書では、「させていただく」という表現には「恩恵性」があるとされている。つまり、「使わせていただく」というように、話し手に何らかの恩恵がもたらされる時に使う表現だ。
「恩恵性」がある例:
会議室を使わせていただきます。
◯◯さんの本を読ませていただいた。
しかし、実際には、話し手に恩恵があるかないかは、全年代で「させていただく」への違和感に関係がなかった。年代で違和感の度合いが分かれたのは、じつは「使役性」や「必須性」の有無だったのだ。
「使役性」は、冒頭の「確認させていただきます」といった表現がそうであるように、許可を得る、という意味合いを帯びていること。
「使役性」がある例:
チケットを確認させていただきます。
契約内容を説明させていただきます。
「必須性」は聞き手の関わりが必須かどうかということ。たとえば、「卒業させていただきます」という表現では、聞き手がいなくても「卒業する」ことは可能なので「必須性」がない。
日本語では主語や目的語が省略されがちなのでわかりにくいが、英語の“I send you a letter(私はあなたに手紙を送る)”のように、目的語としてのyouがでてくるかどうか、とも言い換えられるかもしれない。
「必須性」がない例:
◯△大学を卒業させていただいた。
コンテストで受賞させていただきました。
本来、「させていただく」はこの「恩恵性」「使役性」「必須性」のすべてが必要な表現なのだが、実際には「使役性」「必須性」が両方あるか、片方あるか、両方ないか、で違和感が分かれており、若い世代ほど、「恩恵性」「使役性」「必須性」のすべてが欠けた表現に違和感を感じていなかった。
冒頭の「解散させていただきます」も「恩恵性」「使役性」「必須性」がすべて欠けている表現なので、その意味では、「させていただきます」の用法の最新形なのかもしれない。
半世紀ほどで、「近い」表現と「遠い」表現に二極化
「させていただきます」表現は100年以上前から存在しており、1990年代に広く普及したと言われている。そこで、半世紀以上古いテキストと現在のテキストの2つのデータセットを使い、「させていただきます」の使用法の変遷を探ってみた。
「~してくださる」のように、もののやりもらいを表す動詞が(ここでは「くださる」)、別の動詞(ここでは「する」)の後ろに付いて、英語の助動詞のように使われる用法を「ベネファクティブ」という。私の調査では、「させてもらう」「させていただく」「させてくれる」「させてくださる」の4種類のベネファクティブを比較した。
使用頻度の比較でわかったのは、この半世紀ほどで「させていただく」「させてくれる」の2つが、残り2つに比べよく使われるようになったこと。これは4つの表現が、対人距離的に最も「遠い」表現と最も「近い」表現に二極化しているとも言える。