近年、写真業界の苦境のニュースをたびたび耳にするようになった。
スマートフォンの普及。さらに、追い討ちをかけた新型コロナ禍…。その打撃を受けたのは、町の写真屋から大手カメラメーカーまでと幅広い。カメラメーカーのギャラリー閉鎖や若手写真家の登竜門となっていた公募展の中止などの報も相次ぎ、写真を取り巻く状況は決して芳しいとは言えない。
このように写真業界に逆風が吹くなか、東京・吉祥寺に5坪ほどの小さな写真店「Prism Lab.KICHIJOJI(プリズム ラボ キチジョウジ)」がオープンした。
「独立して新しいお店を出すことを報告すると、だいたいの人にきょとんとされました。 『斜め上を行っているね』などと言われたこともありました(笑)」
店長の西村康は、こんなご時世での新たな船出を、多くの人に驚かれたという。
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父が創業した街の写真屋、顧客にはあの「浅田家」も
西村は、もともとは西武新宿線の東伏見駅(東京都西東京市)の駅前にある「西村カメラ」に20年以上勤務していた。西村の父が創業し、同地で50年以上続く老舗。家族経営の地域に根差した、いわゆる“町の写真屋”だ。
この西村カメラには、他にはおそらくはなかなかないであろう、変わった一面があった。多くの写真家がわざわざ東伏見まで足を運び、西村カメラにフィルムの現像やプリント、データ作成などを依頼しているのだ。
「香港出身のエリックという写真家がいるのですが、彼は西村カメラで働きながら写真学校に通い、その後、写真家としてみるみる実力を付けていった人物です。彼を通じて、写真家の方を紹介していただくことが多かったです。そこから人が人を呼んできてくれるような感じで、いろんな写真家さんが来てくださるようになりました」
昨年公開の映画『浅田家!』のモデルとなった木村伊兵衛写真賞作家の浅田政志をはじめ、川島小鳥、松岡一哲、名越啓介、野村恵子、小野啓、木村和平といった実力ある写真家が、西村に信頼を置いて仕事を依頼している。顧客の写真家全員の名前を挙げるわけにはいかないが、写真作家としてはもちろん、雑誌や広告などで活躍中の写真家ばかりだ。
一般的には、プロの写真家は「プロラボ」と呼ばれる専門家仕様の現像所を利用することが多く、これほど多くの写真家が町の写真屋に足を運ぶのは異例と言ってもいいのではないだろうか。