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「売り上げ4~5割減は当たり前」のコロナ禍で、老舗写真店の息子が“独立”しても絶望しなかった意外なワケ

2021/04/09
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Prism Lab.KICHIJOJI プレオープンから話題に

 Prism Lab.KICHIJOJIは、本オープンの前に4月1日からプレオープンしているが、さっそく「#プリズムラボプリント」というハッシュタグを付けて投稿する人も出てきた。

 

 店頭には、安価なプラスチック製から高級カメラまで、様々なコンパクトフィルムカメラがディスプレイされているが、これらは西村の私物の一部。そう、西村自身がフィルム写真に魅了されている1人なのだ。

「フィルムの魅力っていろいろあると思いますが、僕なりの答えは“存在感”にあるのかなと思っています。例えば、暗い場面というのはフィルムで撮るのは厳しい条件なんですけど、情報がぎりぎりフィルムに残っているんですよね。現像してみると、粒子が浮かび上がってくる。そこには、必ず何かがあったという存在感を感じるんです。

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 それに、デジタルで表現される方でもわざとノイズを入れたりしてフィルム写真調に仕上げる方がいらっしゃいますが、結局はフィルムのような描写が好きっていうことの裏返しなのかなと思っています」

 西村がフィルムの写真について語り始めると、どんどん熱を帯びてきて止まらなくなる。

プリントした写真の愛おしさ

 もう1つ、西村が特にこだわりたいと考えているのがプリントという物として写真を残すことだ。だが、現実はというと、フィルム現像の仕事は増えても、スキャニングしてデータで納品することがほとんどで、実際にプリントまでお願いされることは少ないのだそうだ。

「スマホなどの液晶画面で見るのと、実際にプリントしたものを見るのとでは、同じ写真でも見え方は全然違ってくると思うんです。僕自身、プリントになった写真を見ていて自分のなかの固定観念を外される瞬間があるのですが、そういう気付きを提供していきたいと思っています。

 それに、物事は永遠ではありませんから。プリントした写真は、時間の経過とともに褪色していきますが、そこに愛おしさを感じることもあるのではないでしょうか。『いつまでも変わらずにずっとある』というよりも『過去にあったんだな』という感覚が、プリントにした写真からは得られると思っています。

 まあ、僕自身が朽ちていくものが好きだから、こう思うのかもしれませんが(笑)。

 写真家さんの展示を見てもらったり、プリントを手にとってもらったり、皆さんにはプリントに気軽に触れてもらえるサービスを考えています」

 

 Prism Lab.KICHIJOJIの立ち上げに際して、西村と、従業員の古屋岳史、前端修のスターティングメンバー3人で、浅田政志に店のアイコンとなる写真を撮ってもらった。

「浅田さんのお仕事に関わらせていただく機会はありましたが、撮影現場で、写真家さんやカメラマンさんがどのように写真を撮っているのか、すごく興味がありました。

 自分が被写体としてレンズの向こう側に立って見ることで、これまでとは違った立場から、一枚の写真ができていく過程を見ることができました」

浅田政志氏に撮影してもらった一枚

 長年写真に携わってきた西村だったが、自身が被写体になったときに、今まで気付けずにいた写真の側面を知ることができたのだという。

 まだまだ写真には可能性が残されている――西村はそれを信じ、新しい店舗で探究していくつもりだ。

写真撮影=平松市聖/文藝春秋

INFORMATION

店舗情報

Prism Lab.KICHIJOJI

住所:
東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目28-3
ジャルダン吉祥寺113

公式HP:
https://sun-prism.net/

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