真面目でおとなしい人物の「もう一つの顔」
男は山口県下関市出身で、高校は北九州市の私立校、大学は福岡県内にある国立大の夜間部に進学した。真面目でおとなしい性格の人物だったというが、男には、もう一つの顔があった。その後、大学を中退し、アルバイトを転々とする生活を始めた男は、道で女性に刃物を突きつけるなどを繰り返して逮捕され、懲役3年6月の実刑判決を受けている。そして出所後、ソーラーパネルの会社の営業職に就き、2009年の夏から益田市の営業所に一人で勤務していた。営業成績は優秀だったそうだ。
男が死亡した11月8日は、母親と一緒に、父親の墓参りへ出かけていたのだという。その帰り道、山口県美弥市の中国自動車道でガードレールに激突し、車は炎上。母親とともに焼死したのだった。その直前、男が周囲の知人に、「大変なことをしてしまった」と語っていたことや、現場にブレーキ痕がなかったことから、事故が自殺である可能性も指摘されたが、遺書は見つかっておらず、事故か自殺かは分かっていない。
そして2017年1月31日、男の容疑は、被疑者死亡により不起訴処分となった。
(中略)
世界に羽ばたくことを夢見ていた真面目な女子大生だったHさん。何の罪もなく、何の落ち度もない彼女の命が、いたずらに奪われたその理由を突き止める道は、被疑者の死亡によって永遠に閉ざされてしまった。そうと思うと、なんともやりきれない、歯痒さばかりが残る結末である。この事件の“真の解決”を見る術は、本当にないものなのだろうか――。
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事件現場からそこで何が起こったと考えられるのか。そして1ヵ月以上たって発見された靴は何を物語るのか。警察の捜査には見落としがなかったのか。「迷宮探訪」では、元警察官が分析している。
写真:谷口雅彦