科学捜査の発達した現代では、警察の事件捜査能力は飛躍的に向上した。警察庁の「犯罪統計資料」の中の殺人事件の件数をみれば、2007年から2016年の10年間の認知件数1万567件に対し、検挙数は1万288件と約97%だ。
逆にいえば、今日でも尚、3%ほどの事件が「未解決」になっている。殺人など凶悪犯罪の時効が廃止されて早11年。事件の風化を防ぐため、実際の現場を新たに訪れ再検証を行ったロングセラー「迷宮探訪」(警視庁元刑事・北芝健監修、「週刊大衆」編集部編、谷口雅彦撮影:双葉社2017年刊)より、一部を抜粋して引用する。
今回は2009年、島根県浜田市・広島県北広島町で起きた「島根女子大生バラバラ殺人事件」について。発見された遺体は性別さえ分からないあまりに痛ましい状態だった……。
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浮かんでは消えていく容疑者
遺体の状況を見て、警察は怨恨による殺人事件の線で捜査を進めた。まず疑われたのは、同じ大学の学生や、近隣地域で頻繁にナンパをしていたといわれる若者など。だが、いずれも結果は“シロ”だった。そもそもHさんは島根に来て半年。人から恨みを買うほどの濃密な人間関係などはなく、交際相手もいないようだったと、友人たちは話している。
その一方で、捜査は通り魔による犯行の線でも進められた。警察はレンタルビデオ店でのホラー映画の貸し出し履歴から猟奇マニアを洗い出したり、動物の解体の技術や道具を持つ猟師や林業関係者をリストアップしたりと、あらゆる可能性を探ったが、どれも空振り。容疑者が浮かんでは消えていくことの繰り返しで、ついに手詰まりとなってしまったのだった。