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——著書『僕が夫に出会うまで』を読んで、七崎さんが江戸川区役所に婚姻届を提出した際、窓口の方の「今はまだ受理できないんです」という言葉に誠実さを感じました。当時のことを改めてお聞かせいただけますか?

七崎 婚姻届を提出して不受理になることはわかっていました。決して喧嘩を売りたかったわけではないんです。でも、好きな相手と結婚したいのに、法律で同性婚が認められていないことで妨げられるのが嫌だった。自分がゲイであることで何かを諦めるなんて……、何も諦めたくないし、より多くのものを掴みたい。だから、婚姻届を出すのも諦めたくなかったんです。今思うと勢いがありましたね(笑)。

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10代に「この国では幸せになれないと思う」と言わせてしまう社会

七崎 先ほど「社会も身の回りも大きく変わった」と話したけれど、まだ身近に同性愛者がいないゆえに自分事として捉えられない、と言う人は多いです。今は山梨に拠点を移しているのですが、東京との差をすごく感じます。山梨の6万~7万人規模の市の市長にご挨拶した時、「自分の周りには同性愛者はいないし、そういう人はどうぞ東京に行ってください」と言われました。そんなことを悪気もなく笑顔で言えちゃう人がまだいるんだな、とショックでしたね。

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 先月講演会をさせてもらった時に、参加していたお母さんの一人が「高校2年生の息子がカミングアウトをした時に “自分はこの国では幸せになれないんだと思う” と言っていた」と話してくれて。若い子に「自分はゲイだからこの国では幸せになれない」って思わせちゃう、そんな社会を作ってしまった僕たち一人一人に責任があるんだな、と。同性カップルを身近に感じられない方の考えるきっかけになれば幸いです。

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 一方で、今の10~20代の子は現状を冷静に見ていると思います。僕が結婚式を挙げた時に、参列してくれた当時高校生だった子が「え、同性同士で結婚できないの? どうしてダメなのかが分からない」と言っていました。そういった疑問をもつ子が増えてきている感じはします。

 最近は北海道の高校生から取材を受けました。英語のディベート大会の「海外の人がもっと札幌に来るにはどうしたらいいか」という議題について、その学生さんはLGBTQの側面から考えていました。僕が高校生の時はLGBTQすら知らなかったから、この20年近くでかなり進んだと思います。希望はありますよ!

 むしろ30代以上の世代が「結婚は男女でするもの」と思い込んでしまっている。僕自身もそうでした。今のルールが本当に当たり前なのか、考えていかなければいけないですよね。

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同性カップルを描いた作品は増えているけど、中には傷つく内容も

——最近はドラマや漫画で、同性カップルが描かれることが珍しくなくなってきました。昔に比べると「同性カップルは当たり前のもの」と考えている人も増えてきた……と考えて良いのでしょうか?

七崎 入り口はそれぞれだから作品から入るのも良いと思いますよ。でも、嬉しくない描かれ方をされることもあります。例えば、去年話題になった「噛まれたら同性愛者になる」という設定を入れた映画『バイバイ、ヴァンプ!』。最近だと稲毛新聞の4コマ漫画もショックでした。同性婚が受け入れられると少子化が進む、という内容です。

 ゲイのカップルにも色々あるし、どのような描かれ方があってもいいけれど、差別を助長するような内容は害でしかないと思います。しかも、事実に基づいていない。

 オランダで同性婚が認められたのは2001年で、その年に生まれた子供はもう大人になっています。そんな時代に「同性婚で少子化が進む」と主張するのは恥ずべきことと思います。