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市教委が「体罰」と認定したものは「身体接触による励まし」

 尋問では、母親が直接質問する場面もあった。3回目の不登校(2017年11月2日から12月17日)の時期に、元職員は「ほぼ母親とは連絡していない」と話していたが、母親は「この時期はネットいじめがエスカレートしていた時期。原告本人は怖くて不登校になっていました。学校にも市教委にも連絡していました。(元職員と)連絡をとってないとは思えない」と反論するかのような質問をした。この頃、不登校だったことに関する学習支援や精神的ケアについては当時の弁護士を通じて交渉をしていたため、元職員は「学習支援計画は弁護士を通じてしていました。それ以外のことでは記憶がない」と言葉を濁した。

 また、サッカー部の顧問も証言した。市教委は健太さんへの不適切な行為について「体罰」と認定し、「訓告処分」をしている。しかし、裁判では市側は、「身体接触による励まし」であり、「(健太さんはその後も)喜んで登校を継続していた」として、体罰を否定している。陳述書では「元生徒の頭や肩をコンコンと軽く叩いたり、頭を撫でたり、耳を指で挟んで軽く引っ張ることもしました」と記していた。岡部裁判長に促され、法廷でその行為を再現してみせた。

「耳を掴んで机に顔が当たるくらいに引っ張ったということです。これは、体罰だということを事実上、認めてしまったんじゃないですか」(母親)

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報告書の内容を信用できないもののように証言した

 尋問後に埼玉県庁内の記者会見室で原告側の会見が行われた。原告側の石川賢治弁護士は、元職員が学校や市教委の認識を聞かれた際に「記憶にない」「自分は市教委としての判断を答える立場にはない」と繰り返したことについて、「教育委員会の代表として証言を求めていたにもかかわらず、覚えていないと。彼は、当時の市教委がどういう判断をしたのか見ているはず。しかし、自分が判断したことではないから話せないというものだった。学校は『加害親子が謝罪をしたから、いじめに該当しない』と判断したというが、そのことといじめの定義は関係ない。『その報告内容を市教委は受け入れたのか?』と聞いても、『記憶がない』と答えた。裁判を馬鹿にしている」と、証言の姿勢を批判した。

川口いじめ訴訟で会見する原告側弁護士 ©渋井哲也

 また、報告書の内容についての証言について、「大きな問題として浮かび上がりました。事務局を担った職員が、報告書の信用性を失うことを言いました。『母親が納得しないので、ちょっとずつ報告書の内容が変わった』という趣旨の発言をした。何度も『母親が納得しない』と言ったこと自体が虚偽です。もちろん、被告の行政側が報告書の内容を否定することはあります。しかし、報告書の内容を信用できないもののように証言させるのは全国的に例がない。虚言を弄してまで報告書の信用性を損ねたことになります。率直に申し上げて衝撃的なことです」と述べた。

 被告である川口市の教育委員会は、文科省や県教委の指導を受けながらも、いじめについて適切な対応をしてこなった。しかし、市教委は、いじめの調査報告書をめぐって原告の母親が「納得しない」などと情報を操作し、県教委や文科省を誘導しているかのような印象を与えている。仮に、裁判所が、いじめの対応を不適切と認めれば、賠償責任を負う可能性があるためだろう。