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精神が死んだ香港

 図らずも新型コロナウイルス感染症の拡大で、ローレンスは2020年3~11月の8カ月間、香港に滞在していた。「今の香港人はすべてに疑心暗鬼になっていることを強く実感した」という。

 SNSは前述のように自由な空間ではなく、メディアはあらかた中国の資金や人材が投入され、公平な報道機関と言えるのは独立系ウェブニュース『立場新聞(スタンドメディア)』、『衆新聞(シチズンニュース)』くらい。香港人が愛用するチャットアプリのWhatsAppには香港警察への通報ホットラインが設けられ、いつでもどこでも誰でも誰かを通報=密告で陥れることができる。

 外出先では一切気ままなおしゃべりができない。医療機関の受診中も、医師や看護師、薬剤師、検査技師の誰が建制派か民主派かわからず、気を許せない。本当の思いや考えを表現できず香港市民は精神的、心理的に死んでいるという。ローレンス自身もデモ発生以来、不眠が続き、睡眠の質が悪くなり、突然感極まって涙するようなこともあるとか。

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 香港は1997年の中国返還後も、教職員の言論の自由は保証されてきた。だが今は、香港政府教育局が教師の匿名通報を奨励。授業中のちょっとした発言やオンラインでの投稿が槍玉に上がる。特に当局は警察批判につながる言動は絶対に容赦しない。

2019年当時の梁天祐

教師たちのストレスは極限に

 教師の匿名通報ホットラインには、開始時の2020年10月だけで200人以上が通報された。教師のストレスは極限に達し、睡眠中以外は事実上何も話せない。通報するのは学生や、その父兄や、同僚教師の場合もある。

「香港では今、教師と生徒の信頼関係がズダズダに破壊されている。香港中文大学が1月に 250 人の中学校(日本の中学・高校に相当)の生徒をインタビューしたところ、87%が香港政府を信頼しておらず、70%が地域社会の大人を信用していないと回答した」

 ローレンスは深く嘆息した。

「今の押し黙ったような香港の静けさ。ストレスはいずれ爆発しかねない。警察権力が際限なく肥大化し、警察は何をやっても許され、恣意的に市民を逮捕できるようになった。香港国安法にはガイドラインが無く、コロナ感染拡大防止を口実に2人以上集まったら即逮捕。(デモ当時の民主派のテーマカラーである)黒マスク、黒Tシャツ姿で外出するだけで職務質問される。

 20年11月の香港理工大学攻防戦では勇武派(武闘派)が一網打尽にされたと報道されたけど、警官隊のキャンパス突入直前、実は多くの勇武派が現場から撤収した。彼ら残党が再び『攬炒(死なばもろとも)』精神で動かないとは言い切れない。警察もピリピリしている。言ってみれば今の香港は火薬庫のようなもので、若者の若さそのものが犯罪なのだ」