香港で中高一貫校の“熱血教師”として政治経済や社会を教えて来た梁天祐(ローレンス・レオン ※仮名、35)は、2017年から日本の語学学校へ留学。在学中に民主化デモが発生し、日本で傍観していることが耐えられず、2019年は8月と11月の2度、砲煙舞い上がる香港へ舞い戻った。
2019年8月はMTR元朗(ユンロン)駅で無差別襲撃事件が起きた直後で、香港国際空港のデモ隊占拠も始まり、デモが本格化していった時期だ。
「秩序を乱す教師」と名指しされ
11月は、民主派が圧勝した区議会議員選挙に投票するための弾丸帰省。香港中文大学や香港理工大学で激しい攻防戦が繰り広げられた時期で、尖沙咀(チムサーチョイ)地区の実家にいたローレンスは、近くの理工大学からひと晩中響く銃声や怒号に、嗚咽や慟哭を抑えることができなかったという。
帰省中はいくつものデモに参加した。また、東京でも在日香港人たちとコミットし、香港のデモを後方支援する活動に関わったため、香港の親中派新聞「文匯報(ウェンウェイポウ)」や中国共産党が関わっているとされる高度に匿名化された民主派告発サイト「香港解密(香港リークス)」でドキシング(ネットで他人の個人情報を不正入手しさらすこと)の被害に遭っている。
「乱港教師(香港の秩序を乱す反体制派教師)」のレッテルを貼られ、実名、プロフィール、顔写真などの個人情報や、日本での詳細な行動記録まで暴露されてしまう。たちまちFacebookなどに罵詈雑言が殺到したため、ローレンスはSNSから過去の投稿をすべて削除し、アカウント自体も変更。香港人が愛用するSNSのWhatsAppやFacebookは既に政府の監視下にあるため、暗号化メッセンジャーSignalやMeWeを使って、“身バレ”に気を遣うようになった。
2020年5月、当時22歳のローレンスの教え子が、2019年6月のデモを扇動した罪で、香港区域法院(地裁)で懲役4年の実刑判決を受けた。デモに関する初の有罪判決で、ローレンスはかつてFacebookに「僕は愛と正義を大切にするよう、常に生徒たちに教えてきた」と書いたが、建制派(親中派)は「授業中、反政府思想を植え付けて、生徒に対し自らのキャリアや未来を破滅させるよう煽りまくった問題教師」と猛批判を浴びせる。これらの経験から彼はオンラインでも不用意なやり取りを控えるようになった。