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「中国共産党の“洗脳教育”が…」愛する香港を捨て、日本に新天地を求めた理由

僕たちは今、香港を捨てて、日本で生きる #1

2021/04/30

「攬炒(ラムチャオ:死なばもろとも)」精神を世界に知らしめた香港の民主化デモ発生から2年が経つ。「香港国家安全法」によって民主派キーマンは片端から逮捕され、選挙制度が変わり立法会(議会)議員は「愛国者限定」にされた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で集会やイベントもままならない。

 デモ頻発当時より平穏を取り戻したかに見える香港だが、中国共産党の覇権主義や言論封殺、市民の分断、若年層の就職難、低賃金、住宅価格の急騰といった困難は何一つ解決に向かっておらず、「高度な自治」や「一国両制(一国二制度)」が事実上崩壊したとみる市民は多い。どんなに香港市民や西欧諸国が中国、香港当局を批判しようと、7月に建党100周年を迎える中国共産党が強権支配の手綱を緩めることはないだろう。そんな“死に体”の香港から離れ、海外で起死回生を図る香港人も少しずつ増えている。

横浜の飲食店で香港スタイルを貫く

 海外に新天地を求める香港市民に人気なのは、旧宗主国の英国とカナダだが、日本に拠点を移す香港人もじわじわ増えている。元来、日本文化や製品に親しみがあり、毎年延べ230万人(総人口は約747万人)が日本旅行を楽しむことから、もともと香港人の日本理解は深い。

 香港の下町・鑽石山(ダイヤモンド・ヒル)に生まれ育った調理師の鄭冠業(カルヴィン・チェン、34)は、2020年12月12日、横浜市港北区の東急東横線綱島駅前に香港茶餐庁『八十港(バーソウゴン)』をオープンした。茶餐庁(チャーチャンテーン)とは、喫茶店と食堂を兼ねた庶民派飲食店のこと。香港のそこかしこにたたずみ、多くは24時間、甘味や香港料理を提供する。

綱島駅徒歩1分の好立地にたたずむ香港茶餐庁「八十港」の外観

 香港は広東文化圏だが、カルヴィン曰く、いわゆる広東料理はレストランが提供する中華料理で、香港料理は、屋台など街角で食す気軽なローカルフードを指す。日本で茶餐庁を標榜する店はおおかたメニューが日本人好みにローカライズされているが、カルヴィンは『八十港』について、香港スタイルをそのまま貫く店作りにこだわった。