だがジョンソン政権は20年6月、香港国安法への対抗策として、BNOパスポート所持の香港市民に英市民権を与える道を開き、特別ビザを発給する方針を表明。特別ビザは21年1月31日の受付開始から約2週間で約5000人が申請した。特別ビザに関しては、香港人口の7割超に当たる約540万人が取得権を持つとされ、21年だけで14万5000人が申請する可能性がある。BNOパスポートと異なり英国内での就業や就学、5年間の滞在で永住権取得が可能(日本は基本的に継続10年以上の在留が必要)となり、さらに永住権取得の1年後には市民権の取得手続きも始められる。
カナダ、台湾も積極的な受け入れ
人口の約1割を華人が占めるカナダのトルドー政権も、香港国安法の施行を受け、21年2月8日から23年2月7日まで、BNOパスポートと香港特別行政区(SAR)パスポートを所持している市民に、一定の条件のもと発給する就労ビザの申請を受け付けている。
台湾は、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が香港人材の移住を歓迎しており、政府が香港市民の移民窓口機関「台港服務交流弁公室」を設けたりしていることが安心材料になっている。距離的にも近い同じ南国の華人文化圏として、物価も香港より安く、医療水準が高い台湾は香港人が居住しやすい。
ただローレンスは、「台湾人も中国の覇権主義の脅威を日々、実感しており、香港人と価値観を共有できるが、中国共産党の圧政から逃れたのに、移民先でも引き続き中国の脅威に怯えるのは苦痛と感じる香港人は多い」と語った。とはいえ台湾内政部移民署によると、2019年は5858人(うち永住権獲得は1474人)、20年は1万813人(同1576人)の香港人が台湾の居留許可証を手にした。
ローレンスは日本留学当初、日本語能力試験最上位のN1レベルを取得し香港に帰って日本語と政治経済や社会問題をレクチャーする私塾を開く計画だった。だが今、香港で塾を開いても弾圧の対象になるだけ。当面は日本香港人協会の活動に注力し、コロナが一段落したら、広東語や香港文化を媒介にした交流会を月1回ペースで開催したいと語る。彼らの理念に共感する在日香港人や日本人も少しずつ集まってきている。
写真=田中淳