「吞めば気持ちもほぐれてきますから」
話す時は一対一。みんなと一緒だと話せないことって案外多いので、個人対個人で、相手の目を見て話します。スタッフは人生の時間を、この場所(店)で遣ってくれている人たち。僕は彼らとも信頼を築きたいし、築くには「話を聞く」が八割だと思っています。
職場で話すと仕事の延長になってしまうので、営業前、ファミレスなどお店以外の場所で。ビールでも軽く一杯、吞めば気持ちもほぐれてきますから。
ちなみに仕事の後、吞みに行って話すことはほぼありません。疲れて頭が回らないから、言いたいことも出てこないし、言われたことも頭に入らない。フレッシュな時間のほうが、言葉がふと心に入っていくんです。
丁寧に、淡々と、すべきことをちゃんとする。そうして土地に根を張る稲や葡萄と同じように、「高太郎」は渋谷の街に根づきたい。
9年前、渋谷に店を出したのは、ライブや芝居、映画など劇場が多い街だから。観劇後に寄ってもらえる店になりたかったんです。今日の舞台は役者がよかったとか、どう感じた? などの余韻を楽しむ場所って、飲食店でしょう? そういう店があることは、街にとってもまたいい灯りがともるということ。
今回、人がいない渋谷を初めて見ました。駅ビルも休業して閑散としていたなか、それでも「高太郎」にはお客さんが来てくれた。あったかい灯りの店である限り、長く可愛がってもらえるんだなとあらためて感じました。
僕らは、グルメサイトの点数が高いことより、その人の頭の一番初めに思い浮かぶ店でありたい。これからもそこを目指していきます。