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コロナで二週間の休業も「未来が見えた気がしました」 店主が背中を押された常連の“ある言葉”とは

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』より#後編

2021/05/13

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 読書, グルメ, 社会, 働き方

note

「お店は、君の人格だよね」

 ただ、居酒屋店主としての葛藤はあります。衛生面でも三密を避ける対策でも、細心の注意を払って徹底的に管理している、とはいえ人が集まる場所をつくっているのですから。

 それでも店を再開したのは、収束が長引くと考えたからです。五月いっぱいか六月までかわかりませんが、これは長期戦です。とすれば経営的に、できる範囲で営業するしかありません。まだまだ様子を見ながらといったところですが、少しずつでも歩き出すしかない。

 長引くほど、お客さんが戻ってきてくれるのか不安でもありますよね。飲食業界だけでなく、社会の状況もきっと変わるから。たとえばみんなリモートでも仕事ができると気づいて、通勤が減って、会社帰りに寄っていた飲食店に行かなくなる可能性だってあります。

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©iStock.com

 コロナ以後、僕らはどう在るか。じつは、ある常連さんのひとことがずっと頭に残っているんです。

「お店は君の人格だよね。それが好きで毎月来ているんだよ」

 この言葉で、これから進むべき未来が見えた気がしました。

 料理やお酒、接客もより細やかに気を配り、チームワークを深めていくこと。そうすることで、よりお客さんとの信頼関係を強いものにしていこう。世のなかがどう変化したとしても、その信頼がきっとお客さんと僕らをつなげてくれる。今はそんな気がしています。