今から26年前。3月にオウム真理教の地下鉄サリン事件、國松孝次警察庁長官狙撃事件(時効成立)が立て続けに起き、首都・東京が大混乱に陥った1995年。その夏、都下八王子市郊外で、銃犯罪の歴史を塗り替える惨憺たる射殺事件が起きた。

 市内では最高気温34.2度を記録。陽が落ちても茹だるような蒸し暑さの収まらない、7月30日の夜に起きた「八王子スーパー強盗殺人事件」は、未だに犯人の特定すらされていない。なぜ警察は真相にたどり着けないのか。ジャーナリスト・石垣篤志氏が、“謎多き未解決事件”の裏側を明かす――。

出典:「文藝春秋」2011年12月号(※肩書・年齢等は記事掲載時のまま)

ADVERTISEMENT

◆ ◆ ◆

 現場の「スーパーナンペイ」大和田店は、事件の3年後に廃業。現在は駐車場だ。辺りの風景もすっかり変容したが、隣家の男性は今でも「あの日曜日の晩」を忘れていない。

「飲んでから帰宅し、テレビでプロ野球中継の巨人対ヤクルト戦を観ていたんです。9回に巨人の石毛(博史投手)がホームランを打たれた場面までは覚えているんだけど、そのまま転寝(うたたね)しちゃってね。気づいた時には外が大変な騒ぎになっていた」

女性従業員3人が射殺された「スーパーナンペイ」大和田店 ©時事通信社

 その隣、ナンペイの事務所2階では女性3人が射殺された状態で見つかっていた。パート従業員の稲垣則子さん(47)、夏休みを利用した高校生アルバイトの矢吹恵さん(17)と友人の前田寛美さん(16)だった。

犯行可能な時間は「約2分半」

 一報を受けて事務所に駆けつけた同店のA専務(故人)は、2001年に取材した際、凄惨な光景を昨日のことのように描写してみせた。

「中に入った瞬間、稲垣さんと目が合ってね。冷蔵庫の脇の壁にもたれて倒れてたんだけど、目をカーッと開けておでこの二つの穴から一筋ずつ血がポロポロとさ......。あんまり睨まれてるから、足も震えて稲垣さんから目を外せなくて、床の分厚い血溜まりの中に女子高生が2人倒れてることに、最初は気づかなかったんだよ」

 ナンペイの閉店は午後9時。稲垣さんが、第一発見者となる近所の知人男性Mさん(故人)に迎えを依頼したのが、通話記録から同15分。その後の捜査により、付近路上の通行人が銃声を聞いたのは同17、8分頃とされ、Mさんが事務所下に到着、待機したのが同20分過ぎ。

 そして導き出された犯行可能な時間は約2分半。「長くても4、5分」(警視庁捜査一課OB)という極めて短時間の凶行からは、犯人の躊躇(ためら)いが全く感じられない。事件の“戒名”は「――強盗殺人事件」と銘打たれているものの、そもそも犯行の目的が金銭か、それを装った殺人だったのか、捜査陣の中ですら見解は分かれている。