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 今でも覚えているんですけど、1976年に赴任した都下の公立中学の教頭に、「尾木先生、私たちは一般の公務員より4%も多くお給料をもらってるんだから、それに見合うように頑張ってください」と言われたんです。僕も素直に、その責任を果たさなきゃって思っていました。当時の教師にとって教職手当の「4%」っていう数字はプライドそのものだったんですよ。

 ところがその後教師の仕事はどんどん忙しくなって、人も削られていき、今では1カ月の時間外労働が「過労死ライン」とされる80時間を超える中学校教員が6割いるという試算さえ出ているのに、手当は当時と同じ「4%」のまま。いまでは「4%」は苦しさの象徴になってしまいました。「心の病」で2019年度に休職した公立校の教員は5478人で、過去最多を更新し続けています。

 忘れている人も多いでしょうけど、僕の頃は教師も夏休みは子どもと同じくほとんど休み同然でした。2、3日の日直があるだけで、あとは自由。普段休暇がとりにくい代わりに家族旅行に行ったり、授業の準備や研究をするためにも大事な時間でした。

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 でも日本社会の労働環境が厳しくなるにつれて、「こっちは毎日忙しいのに隣の先生は夏の間ずっと遊んでる」と苦情が入るようになるなど、教師への風当たりもどんどんきつくなりました。今では先生の“夏休み”はほとんどありません。

「顧問を引き受けてみたら、土日の休みがなくなりました」

 加えて、先生たちを苦しめているのが部活の指導です。僕も教師の時は毎年部活の顧問をしていたし、2つの部をかけもちしていた年もあります。ある年、顧問の先生が異動でいなくなってしまった陸上部の生徒たちが職員室に来て「尾木先生、このままだと部活なくなっちゃうから顧問やってよ」って言うんです。僕は陸上に詳しくなかったし、すでに1つ部活を持っていたので断ろうとしました。でも生徒たちが必死で頼んできたら、さすがに断れませんよね。

 それで顧問を引き受けてみたら、まず土日の休みがほとんどなくなりました。大会や練習試合の引率に審判から雑務までやって、もう毎日くたくた。子どもたちや親が喜んでくれるのは嬉しいですけど、そりゃ大変ですよ。

写真はイメージです ©iStock.com

 ただ、今の先生たちに部活の指導まで求めるのは酷でしょう。教員の1週間当たりの勤務時間(中学校)は56.0時間 でOECD48カ国の中で最長(平均は38.3時間)。授業時間は参加国平均と同程度なのに、部活動などの課外活動の時間はOECD諸国の平均と比べて3倍以上長く、事務業務、授業準備とともに教員の勤務時間を長くする要因となってしまっています。

 そもそも、部活動は正規の学校教育の構成要素ではありません。顧問を引き受ける義務もないことを文科省も明らかにしています。