文部科学省がはじめた「#教師のバトン」プロジェクトが波紋を広げている。
「#教師のバトン」とは、文部科学省が教師の魅力を発信する広報活動の一環としてスタートした、Twitter上で様々な教育現場のエピソードを募集するキャンペーンだ。
しかし「教師の魅力を発信したい」という文部科学省の目論見とは裏腹に、実際に集まったのは労働環境の過酷さや精神的な負荷を嘆く声ばかりだった。
それに対して萩生田光一文部科学大臣が「願わくば学校の先生ですから、もう少し品のいい書き方をして欲しい」と発言して火に油を注ぐなど、あらゆる意味で注目が集まっている。
自らも22年間中学校・高校の教師として教壇に立ち、今も教育についての提言を続ける“尾木ママ”こと尾木直樹氏に「#教師のバトン」プロジェクトについて話を聞いた。
大臣や役所は学校現場の苦労を知らなかった?
「#教師のバトン」についての最初の感想は、「文科省の役人さんはなんて素直な方たちなんだろう」というものでした。集まった意見への萩生田大臣の反応も、いまさら何を言ってるんだろうと驚きましたよ。
だって教育現場の意見や提言を匿名で募集したら、不満がどっと集まるに決まってるじゃないですか。そんなことさえ想像できずにああいう反応になってしまう時点で、大臣や役所は学校現場の苦労を全然知らなかったと告白しているようなものです。
きっと、文科省は焦っていたんだと思います。いま、教師が全然足りていません。最近発表された2019年度実施の小学校教員採用試験の採用倍率は、全国平均で2.7倍でした。
昔から、教師の質は試験の倍率が3倍を切ったら維持できないと言われてきました。それが今では、全国平均で3倍を切り、2倍を切る県さえ出てきている。校長が「教員免許を持ってる人なら誰でもいいから紹介して」と職員室で頼むような学校もある状況です。教師のわいせつ事件や体罰事件が止まらないのも、やっぱり質の問題があるんです。
文科省はその状況をなんとかしようとして、教師という仕事の魅力をアピールしようと率直に考えたんでしょうね。
「4%」の教職手当はプライドだった
僕が現役教師だったのは、1972年に海城高校で教えはじめて1976年に中学へ移り、1994年の3月に辞めるまでの22年間です。当時の学校は今よりずっとのどかで、教師の労働環境が厳しいという話なんてした記憶がありません。
ちょうど働き始めた年に田中角栄が総理大臣になって、教員の勤務時間を調査したんですよ。そうしたら平均的な公務員より勤務時間が長いということで、その時間外労働時間に相当する額として給料に4%の教職手当が上乗せされるようになりました。