《4月の残業時間が150時間》
《鬱になって8年。薬飲みながら教職を続けています》
《毎朝6時台に家を出て22時過ぎに帰宅》
3月26日に始まった「#教師のバトン」プロジェクトに注目が集まっている。「#教師のバトン」とは、文部科学省が教師の魅力を発信する広報活動の一環としてスタートした、Twitter上で様々な教育現場のエピソードを募集するキャンペーンだ。しかし「教師の魅力を発信したい」という文部科学省の目論見とは裏腹に、実際に集まったのは労働環境の過酷さや精神的な負荷を嘆く声ばかりだった。
「文部科学省が教師の魅力を発信しようとすること自体、まったくもって必要のないことです」
そう語るのは、1979年から40年近く文部科学省(入省時は文部省)で教育行政に携わり、文部科学事務次官を務めた前川喜平氏(66)だ。前川氏に「#教師のバトン」炎上に潜む問題について聞いた。
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教師という仕事の魅力がわからない人がどれほどいるのか
――今回の「#教師のバトン」について率直な感想を聞かせてください。
前川 これは起こるべくして起こった炎上だと思います。誰が思いついた企画なのか知りませんが、教育現場と文科省で考えに乖離があることは簡単に予測できたはずです。炎上したことで現場の生の声を聞くことができたので結果的に良かったとは言えますが、僕が文科省にいたら「教師の魅力を現場に発信してもらおう」っていう企画なんて絶対にやりませんね。
――それはどうしてでしょう?
前川 そもそも、教師という仕事の魅力自体がわからないという人がどれほどいるのでしょうか。僕は教育行政に携わっていた38年間ずっと、子供たちと喜びや悲しみ、葛藤を共有できる現場の教師の方々を羨ましく思っていました。文科省はあくまで縁の下の力持ちで、現場の感動を味わうことはないですから。直に子供たちと触れる仕事の魅力は絶対にあるんです。
それなのに、改めて魅力を発信する必要があるほど教師という職業の人気がないとしたら、それは魅力を打ち消してしまうほどの巨大なマイナス要素が存在するから。文科省は魅力の宣伝じゃなくて、まずはマイナス要素を取り除く努力をすべきなんです。
教師の仕事は授業。部活や生活指導は別にすべき
――「#教師のバトン」のハッシュタグにはあらゆるマイナス要素が書き込まれていますが、前川さんにとって最大の問題点は何でしょう。
前川 教師がやらなくてもいい仕事を教師が抱えすぎている。これに尽きると思います。
――詳しく教えてください。
前川 簡単にいえば、授業以外のすべてですね。教師の仕事は授業をすることで、それ以外は他の専門性をもったスタッフに任せるべきなんです。その中には部活や生活指導も含まれるし、教育委員会に提出する様々な文書を作るのもコロナ禍での消毒業務も、本当は教師がやるべきことではありません。
欧米の学校では、学校のスタッフの中で、教師が占めるのは6割ほどなんです。教師以外に事務スタッフのほか、ICT専門職やカウンセラーなどがいて、その人たちが4割に達します。対して日本は8対2で、全校で事務職員が1人しかいないという小中学校がほとんどです。これでは教師の負担がどうしても増えてしまうんです。