1万円で「無限に働いてください」
――せめて、すでに部活動のために時間を使っている先生に残業代を払うことはできないんですか?
前川 残業代を払うとしたら膨大な額になるので、財源を握っている財務省や総務省がうんと言わないのです。そもそも部活動などのための残業は、教師が自発的に行っているという建前に問題があるのです。
――どういうことでしょう。
前川 教員には給与特別措置法というのがあり、その中で教員に残業を命じられるケースは学校行事や地震のような緊急事態など4つだけと決められています。一見、教員の過剰な残業を防ぐために作られたルールのように見えますが、実際は「それ以外の残業はすべて教員が自発的に取り組んでいることなので管理職に責任はない」という形でブラック労働の温床になってしまったんです。
――「部活を断れない」という声は「#教師のバトン」でも多く見られました。自発的とはとても思えません。
前川 まったくその通りで、現実としては強制的に顧問を持たされている先生がほとんどです。残業代が出ない代わりに、給与特別措置法では本給の4%を手当として支給することになっています。それが実質的な残業代なのですが、月給が25万円だとしたら4%は1万円。その1万円で、公立学校の先生たちは「聖職者として無限に働いてください」という呪いをかけられているんです。
「ゆとり教育」を復活させるのもひとつ
――献身にも限度がありますね。
前川 さらに不公平なのは、給与特別措置法が適用されているのは公立の教員だけなんです。私立はもちろん、国立大学の付属校も法人になったので労働基準法にもとづいて残業代をもらっている。公立学校の中だって、事務職員や栄養職員には時間外手当が出ます。学校の外でも中でも分断が生まれています。「#教師のバトン」で教員の労働環境に光があたっている今は、積もりに積もった歪みを解決する最大のチャンス。給与特別措置法は廃止するべきなんです。
――法律の改正や意識改革など問題山積に見えますが、前川さんが考える「起死回生の策」は何ですか?
前川 僕は、ゆとり教育を復活させるのが1つの解決策だと思っています。ゆとり教育は結果的にバッシングを受けたことで失敗のように思われていますが、ゆとり時代は授業時数も減り、先生の負担もある程度減っていたんです。子供の学力が低下したというイメージが根強くありますが、これも本当は間違い。むしろOECDの国際的なテスト「ピザ」では、ゆとり教育を受けた世代の国際的な順位が今より高かったというデータもあります。
現在の学校がギリギリまで追い詰められているのは現実です。教職員の増員、給与特別措置法の廃止、ゆとり教育の復活など抜本的な改革を行うべきです。「#教師のバトン」はそのための大きなきっかけになると思います。