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「1万円で無限に働かせる“聖職者”論」「部活大好き“BDK”」…元文科次官・前川喜平氏が語る《#教師のバトン》の真実

部活やモンペ対応は教師の仕事ではない

note

「教師聖職者論」なんてなくなればいい

――単純に人数の問題が大きい、ということですね。

前川 正直、教育現場に投入する人やお金を増やすことができれば、解決する問題は多いんです。ただ根本的には、日本型教育の根底にある「教師聖職者論」を変えていくことが重要だと思っています。

――「教師聖職者論」とは何でしょうか。

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前川 教師は人を導く牧師のような存在で、365日24時間寝ても覚めても子供のことを考えているものだ、という考え方です。たとえば「#教師のバトン」でも「子どもが万引きしたら担任が出ていかないといけない」と嘆く声が見られましたが、普通に考えれば万引きは親と警察の仕事なんですよ。でも日本では、子どもがコンビニで万引きをしたら店員は真っ先に「学校はどこだ」と聞いて担任を呼び出すんです。

――学園ドラマでよく見る光景です。

前川 生徒が他校とトラブルを起こしたら、深夜だろうが何をしていようが真っ先に駆けつける。アレがまさに“聖職者”たる姿ですよ。「3年B組金八先生」は教師の理想像かもしれませんが、金八先生にだって、本当は家でぼーっと野球中継を見たり、家族とピクニックに行くオフの時間が必要なんです。

 僕は「教師聖職者論」なんてなくなればいいと思ってますよ。率直に言って、やってられませんから。教師は教師の仕事をして、オフでは自分の時間をどう使っても自由なはずですよね。

運動会などの行事は負担も大きい ©️iStock.com

「クレーマーみたいな政治家を相手にしていたので」

――確かに金八先生は教師というよりも聖職者のようです。

前川 万引きも本当は保護者と警察の仕事、もしくは児童相談所でしょう。いま学校が担わされている生活指導って、本当は教育と福祉と警察行政の境目にある問題なのに、その負担が教師にのしかかっているのが現状ですから。

――「#教師のバトン」では子供の保護者への対応、いわゆる“モンスターペアレント”問題への言及も多くありました。

前川 "モンペ”問題は文部科学省でも長らく議論されてきた問題です。しかしこれについても、基本的には教師ではなく教育委員会で対応するべきだと考えられています。お店でも何でも、クレーム処理を担当する窓口がありますよね。同じように教育委員会にも窓口を設けるべきです。余談ですけど、僕は官僚の時にクレーマーみたいな政治家をずっと相手にしていたので苦情処理は得意で、どこかの教育委員会が雇ってくれるなら“モンペ”対策に取り組んでみたい気持ちがあるんですよ(笑)。