「録音とらせてもらうからな!」という生徒の父親の記憶
教師という仕事は、1人の人間として生徒と向き合わないとできません。それは相手が保護者であっても一緒です。僕が教員だった頃も、文句を言ってくる親というのはいました。テープレコーダーを机にガチャンと置いて、「録音とらせてもらうからな!」と。それで「なんで子どもがタバコ吸ったらダメなんだ、パチンコやっちゃダメなのか」なんてめちゃくちゃなことを言う(笑)。
それでも僕は、「お父さんも子どものことを考えてるんだね」って話を聞いていました。そのお父さんの考え方ややり方は間違ってると思っても、愛情の部分だけは受け止める。そうすると徐々に信頼関係ができて、話も通じるようになっていくんです。
綺麗事に聞こえるかもしれないけど、教育は信頼関係がないと成り立ちませんから、過剰にマニュアル化したりシステム化することにはあまり賛成できません。教師が1人の人間として、子どもや親としっかり向き合うための時間的、精神的なゆとりが必要なのです。
僕が教師になった頃は、先生というと「3年B組金八先生」や「スクール☆ウォーズ」のイメージでした。いま見ると時代遅れなところも多いですが、教師が1人の人間として子どもと向き合う必要があるのは現代でも全く変わりません。
教師の喜びとは…
それでも、教師の仕事は楽しいものです。「#教師のバトン」はその魅力を発信するのが狙いでしたけど、教師という仕事に魅力があるのは当たり前のことです。
学校がうまくいっていなくても、たとえ教育委員会がズレていても、社会がおかしくなっても、目の前の子どもたちを大切にすることができる。子どもたちと顔を合わせて、学びをサポートし、成長する姿を間近で見ることができる。それが最高の喜びです。教師を縛り付けてはいけません。
今回の炎上は文科省にとって予想外だったとしても、こうやって生の声が聞けたことは大きな財産になったと思います。中には乱暴な言葉もあるかもしれないけど、率直な意見を聞くことが一番大事。きちんと内容を分析して、現場の声に応える政策を作ってもらいたいですね。
いじめや虐待、競争教育などに加えてこのコロナ禍と、子どもが置かれている環境はこれまで以上に過酷です。今年度からは小学校で35人学級への移行が始まり、1万人を超える教員が必要となります。一方で、教員免許取得に必要な単位を減らす特例制度が設けられるなど、教員になりやすい環境づくりも進められていきます。
先生たちは、せっかくSNSがあるんですからどんどん意見を表明していってほしいと思います。先月は全国の教員らが「ブラック校則」をなくそうとインターネットで集めた1万8888人分の署名を文科大臣に提出した取り組みもありました。匿名でもいいから情報を発信していけば、必ずそれを受け止める人は出てきますから、諦めないでほしいと思います。