文春オンライン

「モンペ対策には弁護士を」そんな“教育のマニュアル化”には反対です《尾木ママ提言 #教師のバトン問題》

「人生相談は教師の仕事じゃない」という意見も…

note

 だからこそ、文科省も働き方改革が求められる社会情勢の中で、休日に教員が部活動の指導に関わる必要がない仕組みを整備する改革を2023年度から段階的に進める方針を出すなど、部活を学校から切り離して地域に任せようとしているんですが、なかなか成功していません。例えば、部活動指導員が事故や問題を起こしたら誰が責任を取るか、指導員に払う給料はどこから出すかなど、全国的に制度として広げるには課題が残ります。

「今の職員室は上意下達の世界」

 でもやっぱり、一番の問題はお金と人が圧倒的に足りないことです。

 OECDが昨年発表した調査結果ではGDPに占める日本の教育への公的支出はたった2.9%しかありません。OECDの平均は4.1%で、日本は下から2番目なんです。お隣の韓国が3.6%で、アメリカが4.2%、トップのノルウェーなんて6.4%です。昔は「国家百年の計」で教育は日本の財産だと言ってましたけど、今の日本はとにかく教育にお金を出さない。これを増やさないことには始まりません。

ADVERTISEMENT

写真はイメージです ©iStock.com

 お金の他にも、学校を息苦しくしている原因として意外と知られていないのが教師の「階級システム」です。

 昔は校長先生がいて、教頭先生がいて、あとはみんな立場は一緒でした。新任の20代前半の先生も、50代のベテランの先生も立場は同じ。だからこそ会議で議論ができたんです。でも2007年の学校教育法の改正以降、校長、副校長、主幹教諭、指導教諭、主任教諭、教諭と細かく階級が分けられていて、立場が下の先生は上の先生に反論しにくくなっている。

 また、2000年の学校教育法の改正によって、「職員会議」の位置付けが変わりました。以前は教員同士が自由に意見を交わしていた場であったのが、校長の職務の円滑な執行に資するために置くものと定められ、今の職員室は上意下達の世界になってしまったんです。2000年度辺りからは人事考課制度も始まり、教員同士の学び合いや同僚性を高める機会や雰囲気は失われていきました。

 だから僕は、学校の息苦しい状況に反発して、SNSで声をあげる人が出てきたのはとてもいいことだと思います。「#教師のバトン」も、結果的にはとてもポジティブな効果が出ていると思います。ただ僕が少し気になっているのは、「教育をもっとマニュアル化しよう」という声も大きいところです。

 人生相談は教師の仕事じゃないから外注しよう、モンスターペアレント対策が大変だから弁護士を入れよう、という声が多いんですね。確かに現場の負担が重くて、そう思ってしまう先生の気持ちもわかります。でも僕は、それをやってしまったら教育は成り立たなくなると思うんです。