Sさんは大阪の医療現場で仕事をされている。私がタイガース監督を引き受けた際、方々で「周りに阪神ファンがいたら教えてください」とお願いした。するとある日、知人から連絡がきた。「いますよ。私の同級生に熱いファンが」。そうして紹介されたのが、Sさん(大阪在住の京都育ち)だった。
2021年5月某日、オンラインで取材をする運びとなった。画面越しに、阪神タイガースのユニフォームを着たSさんと初対面した。
阪神ファン歴と能見さんファン歴が同じ
あっ、このユニフォームですか? これは旦那ので、私のはこっちです。能見さんの14番。今シーズンはオリックスに行っちゃったので、新しい推しを探しているところです。私にとって甲子園に通い始めたのと、能見さんのファン歴が同じなもので、なかなか「次」が見つからない状態です。
——能見さん、阪神にい続けてほしかったですよね。
そうですね。鳥谷も福留も将来のコーチとして、ゆくゆくは監督としていてほしかった存在ではあるんですけど。本当に悔やまれます(笑)。
——わかります。能見さんファンになったのと、阪神ファン歴が同じということでしたけども、何年くらい前からですか?
元々、祖父がめちゃくちゃ阪神ファンだったんですよ。よく(京都から)球場に連れていってもらってました。家もずっと阪神戦を(テレビで)流しているような家だったので。球場に足繁く通うようになったのは10年くらい前ですね。
最初阪神ファンになったときは、当時は京都にいたので、阪神ファンの友達と一緒にノボテル甲子園とかに連泊をして、連日で入り待ちと出待ちの両方してました(笑)。
——それはかなり熱い(笑)。大阪に住まわれてからはどんなふうに接してますか?
大阪に来てからは、球場まで1時間もかからないので、日勤の時は仕事終わりにそのまま行ったりできるようになりました。少し残業したとしても、急いで行けばなんとか2~3回までに着きます。そういうふうに仕事終わりにも行くようになりました。
——生活の中に阪神がある、という感じですか?
そうですね、観戦に行けない日でも、もちろんテレビは阪神の放送ですし。なんなら大阪に出てきたらサンテレビが、甲子園での試合はほぼ全部放送してくれるので。ま~助かります。なので、テレビももちろんつけてますし、観戦に行ける日はできるだけ行ってます。大阪に来てピークはだいたい週1ペースで甲子園に行ってましたね。
——はぁ~。
去年もそれなりには行けました。このご時世なので、すごくゆっくり見れます。というのも、両隣が絶対いない座り方なので、外野でも、みっつを自分の席みたいに使えて、夏の暑いナイターでも風が抜けていくので、気持ちよかったですね。
大阪は患者も9割、阪神ファン?
——阪神が一緒くたの生活という中で、お仕事のほうは今とても大変ですよね。
そうですね。まさにコロナの患者さんの看護をさせていただいてるので。これまでもストレスはありましたけど、またちょっと違った意味のストレスもあります。ただやっぱりそうなると、ストレス発散じゃないですけど、(医療の)最前線にいても、阪神を応援できることのありがたみをひしひしと感じています。
大阪に働きに出てから、やっぱり阪神ファンの患者さんってすごく多いんですよね。
——やっぱり、そうですか。
京都にもいはったんですけど、大阪は一味違う。筋金入りの阪神ファンの方が多い。そこでやっぱりコミュニケーションも生まれますし。コロナで落ち込みぎみの患者さんに、梅野ファンがいはったんですよ。携帯のストラップが梅ちゃんのユニフォームのストラップだったので、そこから会話が生まれたり。阪神にある意味助けられてる部分もけっこうありまして。シビアな病態の患者さんって、どうしても塞ぎ込みがちなんですが、そういう時でも阪神という共通の話ができる強みはすごくあります。
——体感的に阪神ファンは患者さんの何割くらいですか?
8割、9割くらい……。
——そ、そうですか。それはすごいな。
患者さんに、「春のキャンプも行ったんです」みたいな話をすると、ただの阪神ファンじゃないなっていう目で見てくれて。いったん阪神の話で交流できていると、(病気の)シビアな話に持っていくのもやりやすくなります。(阪神の話を患者さんとすることで)私自身の今のしんどい状況を紛らわしたり、ストレスを発散できたりもしているので、阪神ファンで、大阪で、仕事をする意義みたいなのを最近いっそう感じます。
——職場では阪神の話をされますか?
そうですね。私ほど足繁く通っている人っていうのはあまりおられませんが、ただやっぱり根っこでは阪神が好きっていう人が多いです。コロナになる前であれば、私がふざけてではないですけど、「今日ちょっと私の大事な推しの先発なんで、今日は申し訳ないですけど、ちゃんとテレビの前で待っときたいんで、そうさせてください」って言ったんです。そうしたら、みんな全力で帰してくれました(笑)。「Sさん、今日あれの日やから」みたいに。
——(笑)。すばらしい。
藤浪が久々に先発をする日、婦長さんにその話が耳に入ったみたいで、「Sさんまだ残ってんの? 藤浪やろ? はよ帰り」って言われました(笑)。ありがたいです。
——神経もすり減るような辛い状況だと思いますが、阪神以外で気晴らしってできてますか?
ああ、そうですね。ありがたい話、阪神って年中楽しめるんですよ。オフシーズンも秋のキャンプ、もちろん春のキャンプと。今年はキャンプに行けなかったんで、残念やったんですけど。そういうのもあって、年中楽しませてもらってます。本当に阪神に助けられてます。生活が阪神で回ってるみたいなところがありますね。今は外に飲みにいくようなこともできないので、なおさら家でもできることとなると、野球観戦(笑)。やっぱりそこに落ち着いてしまいますね。