大阪・梅田の地下街の待ち合わせスポットとして知られる「泉の広場」。ここで売春をしていた当時17~64歳の女性61人が、売春防止法違反で大阪府警に現行犯逮捕されていた。府警は令和元年から2年にかけて約1年がかりで捜査していたという。
大都会の真ん中で、何が起こっていたのか。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)の著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が現地を歩いた。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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繁華街で女性61人が現行犯逮捕
今年の1月に気になるニュースが流れた。
産経新聞が配信した、大阪の待ち合わせスポットとして知られている梅田地下街にある泉の広場で、立ちんぼの女性61人が現行犯逮捕されたというニュースである。
大阪有数の繁華街で立ちんぼの摘発が行われたことに驚きを覚えずにはいられなかった。普段東京に暮らしている私は、泉の広場の存在は記事を読むまで知らなかった。なぜこの場所に立ちんぼたちが集まったのか気になった。
逮捕された女性たちは、大阪ばかりでなく、香川や長崎と多方面から来ていて、年齢も17歳から64歳と幅広く、泉の広場が売春スポットとして広く浸透していたことがわかる。
どのような女性たちが、泉の広場で体を売っていたのか。そして、そこが摘発された今、彼女たちはどのようにこのコロナ禍を生きているのだろうか。私は大阪に向かってみることにした。今年の3月の第1週目のことだった。
なぜ「泉の広場」に集るようになったのか
新大阪駅から在来線に乗り換え、JR大阪駅で電車を降りて、グーグルマップを頼りに泉の広場へと歩いた。
地下街を歩き、阪急メンズのあたりで地上に出ると、商店街のアーケードが目に入ってきた。百貨店が建ち並ぶ駅前とは変わり、飲食店が軒を連ねる通りからは、少しずつ生活臭が漂ってくる。さらに広場に近づくにつれて、風俗店の看板が目につくようになり、猥雑な空気も漂い出し、かつて立ちんぼがいたということに違和感がなくなっていた。
螺旋状の階段を降りて、かつて噴水があったという円形の広場に着いた。若い女性やスーツ姿のサラリーマン、さらにはハンドバッグを持った60代と思しき女性。どこかに摘発を掻い潜って体を売り続ける立ちんぼはいないかと目をこらしたが、ひとりひとり女性に声を掛ける勇気もなく、私は15分ほどで広場を後にした。
なぜ、この場所に立ちんぼが現れたのか、気になって周囲を歩いてみると、広場から5分も歩かない場所にラブホテル街があった。さらに、近松門左衛門原作の浄瑠璃『曽根崎心中』の舞台となった露天神社もあって、江戸時代にできた色街曽根崎新地からも近い場所にあることがわかった。周辺のラブホテル街は、立ちんぼたちには好都合だったのだ。