「泉の広場」にいた女性をどう探すか?
泉の広場にいた立ちんぼたちをどのように探すか。泉の広場が摘発された以上、仮に女性たちが戻って来たとしても、警戒されることは間違いないだろう。そこで私が考えたのは、売春に利用されているというマッチングアプリだった。
アプリを利用している一人の友人のことを思い出した。かれこれ15年の付き合いになり、もともとはマスコミにいたのだが、今は転職してサラリーマンをしている浅野君(仮名)という友人だった。
彼は、横浜にあった色街黄金町に興味を持ち、私の著作『黄金町マリア』(亜紀書房)を読んでくれて、メールで連絡をくれたことから付き合いがはじまった。私は事情を説明し、彼が使っているアプリで女性を探してくれないかとお願いした。
「それは難しいんじゃないですか」
と、あんまり気乗りしない様子だったが、無理なお願いをしてから1週間後、その詳細については文字数の関係で記せないが、浅野君は2人の女性を見つけてくれたのだった。
「本当に来てくれますかね。心配ですけどね」
浅野君の不安は私にもあったが、何となく会えるような気がしたこともあり、ちょうどまん延防止等重点措置が適用された日に、再び私は大阪へと向かったのだった。
待ち合わせた女性は「警察の人じゃないですよね?」
最初に私が会う予定だったのは、杏梨(仮名)と名乗った女性だった。私が指定されたのは、梅田から電車で30分ほどの場所にある町工場の前だった。そこに昼の12時とのことだった。
実は、前日に会う予定だったのだが、1時間前に杏梨から、会えなくなったという連絡が入り、ドタキャンされていた。昨日のこともあるので、果たして彼女が現れるのか、半信半疑であったが、とりあえずその場所へと向かった。
改札を出て、長い地下通路を歩いて地上に出ると、そこから5分も掛からない場所に町工場があった。彼女はなぜこの場所を指定してきたのか、この工場の従業員なのだろうか。
待ち合わせの場所を確認すると、近くに話を聞ける喫茶店がないか探してみた。住宅街を抜けた幹線道路沿いに小さな喫茶店があったが、話の内容が内容だけに、気が引けた。さらに歩いていくと、マンションに面した歩道に2人が腰掛けるには十分なベンチが置かれていた。そこなら、あまり気兼ねすることなく、話ができる気がした。話を聞く場所は決まった。あとは彼女が現れることを願うのみだ。
待ち合わせ時間の10分前に、工場前に向かった。
時刻を何度も確認しながら、立っている場所から30メートルほど離れた工場の出入り口に目をやる。時計の針が12時を指して、間も無くひとりの女性が出てきた。
距離が近づいてくるにつれ、肌の色が茶褐色で、日本人ではないことがわかった。まさか彼女ではないと思い、声は掛けなかった。自転車に乗って彼女が去ると、またひとり女性が出てきた。
少しぽっちゃりとした体型で、白いハンドバッグを持っている。おそらくあの女性ではないか。
私が2、3歩近づくと、彼女も私に気が付いた。私が会釈をすると、彼女も応じた。
「取材で来ました八木澤です」
「昨日はすいませんでした。杏梨と言います。警察の人じゃないですよね?」
話を聞きたいと連絡をしてくる人間など珍しいのだろう。私が否定すると、冗談なのか、本気なのか、「あぁ、良かった」と言った。〈#2に続く〉
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4月29日(木)21時から放送するYouTube「文春オンラインTV」では、筆者の八木澤高明氏が出演し、記事に書き切れなかった実態について解説する。
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