日本に残された「色街」の現場はどうなっているのか――。つい4年前、新聞で女性に売春を強要していたと報じられた温泉地の“夜の街”から見えたのは、コロナ禍に揺れた新しい現実だった。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)などの著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が、現地を歩いた。(全2回の2回目。#1を読む)
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玄関先に立って笑顔で迎えてくれた女性
豊川さんが紹介してくれたのは、エーという名の女性だった。彼女は群馬県内の自動車や食品などの工場が多くある街に暮らしていた。
話を聞いた場所は、彼女が暮らしているアパートだった。最寄り駅からは車だけが交通手段という地区に、2階建てのアパートがあった。
周囲は畑で、一見するとのどかな空気に包まれていた。アパートの玄関側はちょうど北向きで、上州名物の空っ風が容赦なく吹きつけてくるのだろう、ひんやりとしていた。ピンポンを鳴らし彼女がドアを開ける刹那、微かにパクチーの匂いが隙間から漏れてきた。
「ハロー、ウエルカム」
南国育ちの彼女には日本の寒さは想定外なのだろう、黒い毛糸帽を被り浅黒い肌をしたエーが笑顔で迎えてくれた。
部屋は玄関を開けてすぐにキッチンがあり、その向こうに6畳ほどの部屋がある、1Kの部屋に親戚の女性2人と暮らしていた。
エーによれば、彼女の暮らす部屋を含めてアパートには10部屋あるが、フィリピン人やネパール人など外国人がほとんどだという。そんなアパートの住民の構成にも外国人が多く暮らす街の特徴がよく現れていた。
ちなみに現在は、工場勤めでスナックでは働いていないという。