1999年11月13日午後2時半頃、名古屋市西区稲生町5丁目のアパートで、主婦・高羽奈美子さん(当時32歳)が首から血を流して倒れているのをアパートの大家が見つけ、119番通報した。

 大家は自宅の庭で採れたカキをアパートの各家の住人に届けようと、3階から訪問。201号室に住む高羽さん宅のインターホンを鳴らしても応答がなく、無施錠だったためドアを開けると、奈美子さんが倒れていたという。

電話で「落ち着いて聞いてください」「間に合わなかったんです」

 テレビはつけっぱなしになっており、同じ部屋のテーブルには子供用の椅子に座らされた当時2歳1カ月の息子がいた。大家が慌てふためいていると、3階から奈美子さんのママ友の女性が下りてきた。事情を知って息子を預かり、女性は奈美子さんの夫に知らせようとした。

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悟さんと奈美子さんは1995年(平成7年)7月7日の「七並び」の日に入籍した

 夫の高羽悟さん(64)が話す。

「その日は名古屋市北区のタワーマンションで、不動産販売の営業をしていました。同じアパートに住むママ友の女性が勤務先に電話をかけてくれて、同僚社員が『高羽さんの奥さんが吐血して倒れたそうです。救急車を呼んだので、すぐに帰ってきて欲しいそうです』と伝えにきた。奈美子には持病もないのにおかしいなぁ……と思いつつ、駐車場から車を出し、最初の信号を待っているとき、私のPHSが鳴りました。

 同じ女性から『落ち着いて聞いてくださいね』と言われ、覚悟を決めました。『間に合わなかったんです…』と言われ、意外なほど冷静に『お手数かけてすみませんでした』と答えました」

高羽奈津子さんの遺影を抱く悟さん。わずか4年あまりの結婚生活だった ©️諸岡宏樹

殺人事件だとは思いもせずに帰宅

 自宅に着くと、複数の救急隊員でごった返していた。奈美子さんはうつ伏せで顔を右に向き、左のおでこにコブのようなものがあり、メガネが外れかかっていた。救急隊員が「鑑識を呼ばなければならない」と叫んでいるのを聞いた。まもなく到着した警察によって現場はキープアウトされ、その外側で待つことになった。

「午後4時頃、出てきた鑑識の人に『どういうことなんですか?』と聞いたら、怪訝な顔をされ、『首を切られてまして。自分で切ったのかもしれないし、人に切られたのかもしれないし』と言われた。それまで殺人事件と思わず、病死で、すぐに解剖にまわされると思っていたのでビックリしました。その後、私も警察署で事情聴取を受けました。妻が殺された心当たりはないかと尋ねられ、前日の夕食とか今朝の朝食は何を食べたのかと聞かれた。胃の内容物から死亡推定時刻を割り出そうとしていたようですが」(悟さん)