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「あの18年がなければ、私は痛みを知らない人間でした」 松本まりかが明かす下積みから学んだ生きる“本質”

松本まりかインタビュー#2

2021/05/08

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 芸能

note

アジアへ旅行に行く理由

原作小説『最高のオバハン 中島ハルコの恋愛相談室』(林真理子)

──アジアへの一人旅もされるなど、アクティブな面もあるとお聞きしました。

松本 お金がなかったので、そんなに行っていたわけではないのですが、一人でまわったことはあります。

 私は長年女優としては苦しい暮らしをしてきましたが、それでも毎日食べるものはあったし、寝る場所にも困らなかった。私はたまたま日本に生まれたことで命の危険や恐怖を感じることなく暮らしていけるけれど、それは特権でも自分の努力で得たものでも何でもないと思うんです。命と向き合う生活をしている人と自分は、もしかしたら逆だったかもしれないじゃないですか。だから、日本に生まれた私たちは、旅行や観光で外貨を大いに使うべきだとも思うんですね。旅は、たくさんのことを教えてくれます。なので、私は、少しお金がたまると旅行に行っていました。

 今はコロナで行けませんが、サポートを必要としている人々に、自分自身でやれることはもちろんですが、仕事でもやれたらいいですよね。たとえばドキュメンタリー番組などで、困っている人々の支援やサポートをするような企画があればぜひお手伝いさせてほしいです。

©文藝春秋/釜谷洋史

──松本さんは空手の黒帯だとお聞きしました。根性がすわっているのは、長年空手をやっておられたことも影響されているのでしょうか。

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最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りてない!』(林真理子)

松本 それもあるかもしれませんが、やっぱり負け続けてきた18年が私の根幹になっているんだと思います。あの18年がなければ、私は痛みを知らない人間でした。人の気持ちや相手を思いやることができない人間になっていたと思うので、それではいい俳優にはなれなかったと思うんです。

 結局、私は負け続けないとわからない人間だったので、神様が18年という試練を与えてくださったのかもしれません。もっと早くわかる人もいるでしょうし、そもそもわかっている人もいるんでしょうが。

 私は、スター街道を歩むという生き方ができなかったかわりに、痛みを知る生き方ができた。それを伝えられる存在になれば、私でも少しは、誰かの力や勇気になれるのかもしれないと思います。