普通であることが正しいということでもない
内田 項目を並べていって、マジョリティとちょっとそぐわないということを、世の中では“普通じゃない”と言っているんですね。一方、子どもから見て「普通のお母さんがよかった」という気持ちは、何となく分かりますよね。私自身もそうだったけど、あんな破れているお父さん・お母さんじゃなくて、目立たず、静かに淡々と日常の喜びを探して噛みしめて生きている人が普通で素敵だなと、ずっと思っていて、今でも憧れています。
中野 ただ、もし自分のお父さん・お母さんは普通だなと思っている人がいたとしたら、もっと普通じゃないお父さん・お母さんがよかったと思っているのではないでしょうか。こんな普通のお父さん・お母さんだから自分はさえないんだ、みたいに思っている人も、必ずいると思う。
内田 結局、ないものねだりっていうことですか。
中野 そう思います。
内田 やっぱり対比なんですよね。陰があれば陽があるのと同じで、自分の中の普通の度合いが、普通でないということとどう対比があるかで、このみっちゃんさんの子どもは「普通がよかった」って言っているわけで、もちろん普通であることが正しいということでもないわけだし。
中野 そうなんだよね。みっちゃんさん、私たちがいま「普通」を「多数派」と定義したんですが、お子さんの思ってる「普通」は、もしかしたら多数派という意味ではないのかもしれません。例えば「社会通念に寄り添った人であってほしい」みたいな考え方なのかもしれない。そうだとすると、ああ、なるほど、みっちゃんさんは破天荒なお母さんなんだなと想像します。お子さんはもしそこがイヤなんだとしたら、ちょっと話し合う余地があるのではないかな。
内田 私もよく子どもたちから、「何でそんな髪型にしているの!」とか、「何でそんなおもしろい恰好をしているの!」とか、すごくイヤそうに言われていました。
中野 え~っ、也哉子さんのファッションはいつも素敵なのに。
“普通”の価値も時代によって変わる
内田 片側の髪の毛を激しく刈り上げたりしていたから。でも、もう子どもたちも「しょうがない、そういうちょっと変わったセンスの親なんだな」って受け入れているようです。子どもたちのほうが大人だったということなんだけど。
私たちが育った80年代とか90年代より現在は、世界に実際に飛んでいかなくても世界の人たちの様子が見えるという、多様性がわりとビジュアルで見やすい環境にいると思うので、私たちが育っていた時代よりも、“普通”の範囲が広がっていませんか。
中野 広がっていますよね。それから、“普通”の価値も時代によって変わるんですよね。われわれは団塊ジュニア世代じゃないですか。この世代は数が多いから、変わっていて目立つことのほうが価値があったと思う。
内田 あ、そうなんですか。
中野 也哉子さんはずっと海外にいたので、そう感じなかったかもしれないですけど、何か変わっている子のほうが価値があるとされていた空気があったんですよ。われわれの下の世代からはだんだん、みんなと合わせることが正義になってきた。そこから外れると「え、イタ~い」と言われる雰囲気が生じてきた。みんなと同じ格好をし始めた。「個性が大事」「個性」「個性」と言われる割には、みんな同じような服を着ている。尖がった個性を出そうとしている人であっても、特定のブランドの服に集中してしまうとか。
内田 そうなんだ。みんな黒っぽかった時代がありましたね。面白い。“普通”とはどんなことか、はいこうです、とは答えられないですね。
中野 はいこうです、とは言えないのですが、みっちゃんさんに方向性がもしご提案できていたとしたらうれしいです。
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内田也哉子
1976年東京都生まれ。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で本木雅弘と結婚する。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『会見記』、『BROOCH』(ともにリトルモア)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』、翻訳絵本に『ピン! あなたの こころの つたえかた』(ともにポプラ社)、『こぐまとブランケット 愛されたおもちゃのものがたり』(早川書房)、『ママン 世界中の母のきもち』(パイ インターナショナル)などがある。
中野信子
1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』、『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。