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殺害が目的であるかのような残酷さ

 金銭を奪うのが目的であるはずなのだが、彼らは被害者宅に入って、まず風呂場にいた母親を溺死させ、続いて寝ていた長男を扼殺。さらにまだ幼い長女を人質にして、父親の帰宅を待っている。そして帰ってきた父親を縛り上げると、キャッシュカードの暗証番号を聞き出し、父親の前で長女を絞殺。瀕死の父親を遺棄場所の博多港に運び、家族の遺体とともに海中に沈めて溺死させている。それはまるで一家の殺害が目的であるかのような、残酷な強盗殺人事件だった。

 この事件を主導したのは王と楊で、魏は途中で子どもを巻き込むことに嫌気がさして、退出することもあった。しかし、彼が一連の犯行のなかで殺害に加担したことは事実だ。

 結果として3人が奪ったのは、現金3万7000円あまり。家にあった宝石類や高級腕時計にはまったく手をつけていなかった。犯行後、解散前に魏は楊から分け前として現金1万円を渡されている。

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 王と楊のふたりは事件から4日後の6月24日に、福岡空港から中国・上海に向けて出国した。魏も出国を急いでいたが、王と楊に再会することで、口封じのために殺害されることを怖れたのと、航空券を買う手持ちの資金がなかったことで出国が遅れたことから、その直前に日本国内で逮捕されたのだった。

 そんな魏の裁判が始まったのは04年3月のことだ。福岡地裁で初公判を傍聴した私は、それまで写真でしか見ていなかった魏をこの目にして、凶悪な犯行内容とは不釣り合いな、あまりにか細く、幼い見た目であることに、驚きを禁じ得なかった。

河南省にある魏巍の実家へ

 そこで留学前の魏について取材をしようと、04年6月に河南省にある彼の実家を訪ねることにしたのである。

 周囲の建物にくらべて立派な造りの広い家。そこで私を迎え入れてくれた魏の父親もやはり、小柄で細身な人だった。いかにも真面目に生きてきたことがわかる実直そうな顔立ちで、息子の犯罪に心を痛めている様子が見てとれた。横に並ぶ母親も父親と同じく神妙な表情を見せている。

河南省に住む魏巍の両親

 挨拶を交わしてから、私が被害者家族の写真を取り出して見せると、「こんな小さな子まで……」と父親は嗚咽を漏らした。横で一緒に涙を流す母親が言う。

「もうすぐ事件から1年が経つのに、夫は毎日泣いてます。1日5回は泣いてます。仕事がまったく手につかないのです」

 それから中高生の頃に成績、品行ともに優秀だった魏の話や、日本に行ってからも、電話で母親の健康を気遣うやさしい息子だったことなどを1時間以上かけて聞いた。