1963年作品(83分)/松竹/2800円(税抜)/レンタルあり

 先日、加藤剛にインタビューさせていただいた。

『大岡越前』の大岡忠相、『風と雲と虹と』の平将門、『剣客商売』の秋山大治郎、『関ヶ原』の石田三成など、加藤が演じてきた役柄の多くには共通点がある。いずれもが、実直、誠実、正義感――生真面目に信念を貫き通す硬骨漢なのだ。よく通る重低音の声と彫りの深い顔、そして折り目正しい人柄の伝わる特有の雰囲気が、そうした役にピッタリと合っていた。

 それは若手時代から変わらない。今回取り上げる映画デビュー作『死闘の伝説』も、そんな一本だ。

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 舞台となるのは、戦時中の北海道のとある農村。雄大な景色が広がり、人々も素朴でのどかな、一見すると牧歌的な場所である。だが、その実態は全く異なっていた。

 物語は、東京からこの村に疎開してきた園部家に、長男の秀行(加藤)が戦地から帰還するところから始まる。秀行の妹・黄枝子(岩下志麻)は村長の息子・剛一(菅原文太)との縁談を持ちかけられていた。が、秀行は戦地で剛一が現地民に暴行する姿を見ており、破談させる。村長に支配された村では、園部家への怒りに震える剛一に村人が忖度、剛一と共に園部家に嫌がらせをするように。

 その選択のためにどれだけ不利な状況に陥ろうと、迷うことなく剛一を許そうとせず、度重なる嫌がらせにも決して屈しない秀行。その様は、木下惠介監督があらかじめ加藤を想定して脚本を作ったと思わせるほどのはまりぶりだ。

 そんな加藤の本領が発揮される場面が終盤に訪れる。

 剛一は黄枝子を犯そうとするが、助けに入った村娘・百合(加賀まりこ)の返り討ちにあって死ぬ。怒り狂った村人たちは村長の扇動を受けて園部家を襲撃、家族は次々と無惨に殺されていった。

 弟の遺骸を前に悲嘆にくれていた秀行だったが、園部側の反撃にあって殺された村人の妻が同じく悲しむ様を見て決意する。「これ以上、死人を出したくないんです!」そして、争いを止めさせようと銃弾が飛び交う「戦場」に向かって、馬を奔(はし)らせていく。

 誰もが理性を失い暴力に駆り立てられる状況にあっても、必死に平和を求める秀行の姿。演じる加藤の揺るぎなく凜々しい表情からは当時まだ二十五歳とは思えない、頑強な頼もしさを感じることができた。

 当人は「仕事を選んだことはない。たまたまそういう役ばかり来ただけ」と言っていた。が、デビュー当時からこれだけの芝居を見せられてしまうと、製作者たちがこうした「信念を貫く硬骨漢」ばかりをオファーしたくなる気持ちは、とてもよく理解できる。