「居酒屋」(五木ひろし&木の実ナナ)や「男と女のはしご酒」(武田鉄矢&芦川よしみ)、「男と女のラブゲーム」(葵司郎&日野美歌)……。行きつけの店に飲みに寄ったら、その日のうちに帰れないくらいの勢いである。
その他にも、愛人とのホテルの密会を描いた「アマン」(シルヴィア&菅原洋一)、「3年目の浮気ぐらい大目に見ろよ」と開き直る「3年目の浮気」(ヒロシ&キーボー)、そして谷村新司が小川知子の胸元に手を入れながら歌う「忘れていいの」(小川知子&谷村新司)。不倫、浮気、セクハラという今なら炎上案件が粒ぞろいだ。
常夏に浮かれた男女のノリノリな世界観
また、1984年には、デュエットソングのターニングポイントとなる一曲が登場する。「ふたりの愛ランド」(石川優子とチャゲ)である。
場所は居酒屋でも繁華街でもなくリゾート地、デュエットソングに必須だった小道具の「酒」は登場せず、曲はポップに。石川優子とチャゲの底抜けに明るい歌唱によって、デュエットソングの幅がグッと広まった。常夏に浮かれた男と女のノリノリかつセクシーユーな世界観は今でも人気だ。
かくして、デュエットソングは老若男女幅広く愛されるジャンルに格上げとなった。初対面でもカラオケの分厚い本(当時はタッチパネルではなく本!)を渡し、「一緒に歌いません?」と声をかけるシーンもスナックのよくある一風景と化した。
会社の歓送迎会や接待で、上司にコミュニケーションの一環として、強引にデュエットを入れられた人もいるかもしれない。「デュエットしようよ」という誘い方によってはセクハラ案件になる時代が来ようとは、この時期は誰も想像もしていなかっただろう。
カラオケの進化とともに曲にも変化が
その後カラオケの進化で、上手な素人が街に溢れるようになる。そのニーズに合わせ、高度な歌唱テクニックを披露できるデュエットソングが生まれていく。
特にパンチがあったのは、鈴木聖美withRATS&STARの「ロンリー・チャップリン」だろう。歌詞がスタイリッシュだし、本家の歌いっぷりもソウルフル。カラオケ猛者たちが歌自慢をするのに申し分ない一曲で、ガンガン入れた。男性も女性も自己流のテンポで歌い、結果、デュエットというより歌唱力の殴り合いみたいになっているケースもよく見たものである。
「ロンリー・チャップリン」を作曲した鈴木雅之は、デュエットソングを多く出しているが、1994年の「渋谷で5時」も名曲中の名曲。