歌は世につれ、世は歌につれ――。
昨年から、これまでの常識や当たり前に続くと思っていたことが、一気に変わることを体感している。ステイタスも、ジェンダーの問題も、人の距離感や思いの伝え方も、価値観が変わる歴史のターニングポイント。
そこでふと思い出したのが「デュエットソング」である。
いざ妄想タイムトラベルへ!
賑やかな繁華街で、男と女が見つめ合い、恋の駆け引きをする。主導権はたいてい男。
顔を寄せ「お前」「あなた」と囁き合う距離感。「新宿」「銀座」など場所に対する強い憧れ、アップダウン激しい恋愛観。そして、コロナ禍で今後どう進化していくのか、おおいに気になる「カラオケ文化」との密接な関係。いろんな方向で「土の時代」の特徴がギュッと凝縮された昭和のデュエットソングは、たった40年前のヒットとは思えないほど描かれる景色が違う。これはとても貴重な時代の置き土産。
カラオケで大勢とワイワイいいながら歌うのは難しい時期だが、聴くには最適の時期である。今カラオケで歌いたいけど歌えなくてウズウズしている方も、歌えないその気持ち、妄想タイムトラベルで発散しよう。
CDや動画を横に、往年の名曲を流しつつ、デュエットソングの物語へ、いざ、ご一緒に!
ナイトクラブ、キャバレー時代の“囁き歌唱系”
「心の底まで しびれるような……」
ムード歌謡系のデュエットソングをあまり聞いたことがない世代も、この歌詞から始まる「銀座の恋の物語」(石原裕次郎&牧村旬子)は聞いたことがあるだろう。
1950年代後半~1960年代前半に流行した、この「銀恋」や「東京ナイト・クラブ」(フランク永井&松尾和子)などの、囁き歌唱系デュエット。これはデュエットソング・タイムトラベルをするうえで真っ先に押さえておかねばならない。大勢に聞かせるというよりも、横にいるパートナーの耳元にいかにセクシーに愛を届けるか。それに命を懸ける感じの名曲はゾクゾクする。
特に「東京ナイト・クラブ」は歌い出しから見事。「なぜ泣くの 睫毛が濡れてる」という男性パートの歌詞からは、ものすごい超至近距離で女性を見つめていることが窺える。それに女性は「好きになったの、もっと抱いて」と返す。きゃー!
この時期のデュエットソングの濃厚接触モードは、カラオケがまだ存在せず、デュエットを歌える場所がナイトクラブやキャバレーだったことがおおいに影響しているだろう。