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アニメを後押しするミニシアターの役割

『失くした体』は、アニメーション映画としては初めてカンヌの批評家週間でグランプリを獲得し、ネットフリックスが独占配給権を得た。1990年代のパリを舞台に、切断された手がその持ち主を探して街を彷徨うというアニメーションでしか可能でないやり方で(原作は『アメリ』の脚本家ギョーム・ローランによる小説である)、アフリカ系移民の少年と白人の少女のあいだの関係を描く本作は、短編アニメーション作家として長年評価を受けてきたフランスのジェレミー・クラパン監督による初の長編作品だ。

 Blenderというゲーム制作のためのソフトウェアを使い、2Dと3Dを混ぜ合わせたハイブリッド・スタイルで作られた本作は、3Dアニメーションが実写も含む「映画」全体に、新たな表現の可能性をもたらしていることを実感させる。

 現実的な頭身で、解剖学的に正しいプロポーションで描かれるキャラクターたちは、あえて枚数の少ない作画で動き、隙間を感じさせる。その表現の選択が、物語のテーマ――今とは違う可能性の自分へと飛躍しうること――を雄弁に物語る。アニメーションは、表現形式と物語とが一致したときに強力なものとなることを、本作は教えてくれる。

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 もうひとつの新たに開かれるアニメーション表現として、ラトビアの若手監督ギンツ・ジルバロディスがたったひとりで作ったCGアニメーション長編『アウェイ』も挙げておきたい(日本では昨年末に公開された)。

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 飛行機事故で無人島に不時着した少年が謎の黒い影に追われながら島を横断していくロードムービーである本作は、アニメーションや映画のみならず、映画的なゲーム(日本人では小島秀夫や上田文人らの影響を公言している)からも大きな影響を受けている。ゲーム制作にも使われるデジタル・ソフトウェアを使って制作をするジルバロディス監督は、様々なジャンルの表現がボーダレスに混じり合う次世代の映画の姿をうかがわせる。作品のそのキャッチーさもあり、次作以降でのブレイクが期待される。

『アウェイ』:
ラトビアのギンツ・ジルバロディスが監督・編集・音楽など3年半をかけてひとりで完成させた。飛行機事故で一人生きのびた少年は森で地図を見つけ、オートバイで島を駆け抜ける。全編セリフはなく、美しい映像であふれた本作は高い評価を獲得した。

配信プラットフォームとの理想的な共存

 これらの先鋭的な作品の受け皿となるのも、日本においてはミニシアターである。配信プラットフォームとの理想的な共存が、ミニシアターという環境を通じて成立しているわけだ。

 ミニシアターの役割として、オルタナティブなかたちで表現の可能性を探り、次世代の表現を先取りしうるものをいち早くピックアップするというものがある。

 いま日々進化しつつある海外アニメーションの世界は、そんなミニシアターの世界の本分に、とても合っているのだ。 

週刊文春CINEMA! (文春ムック)

 

文藝春秋

2021年4月26日 発売