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虐殺、強制収容所、美容整形…海外アニメが抉り出す「実写では描けない“社会のリアル”」

2021/05/07
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「海外アニメーション」に、実は戦争や難民の姿、社会の実態を描いた作品が多いことは知られていない。実写映画では描けないアニメの世界こそが社会の実態をリアルに表現できるのだ。

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 2010年代、世界の長編アニメーション・シーンは一気に成熟し、表現の多様性を獲得した。表現手法も、絵柄も、取り上げるテーマも様々で、しかし共通して、現実社会への確かな眼差しと態度を持った「大人向け」の作品が増えてきている。それに伴走するかのように、日本のミニシアターで配給される海外長編作品の数もまた増えてきたが、一方で、観るべき人に、まだまだ届いていないとも感じる。この原稿はなによりも、それがアニメーションであるからという色眼鏡があるせいで「生涯の一本」になりえる作品に出会いそこねているあなたに向けて、書いてみたい。海外アニメーションの世界は、いま、映画表現全般でみても、相当エキサイティングな時期を迎えつつあるので、見逃すのはもったいないのだ。

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 大人向け海外アニメーションの面白さ――それはたとえば、ある時代・社会に限定された物語を語りながらも、しかしそれを観る人に、その「遠い」はずの世界をひとごととして感じさせないところにある。パーソナルな出来事を描きつつ、それが普遍的にもなるという矛盾する性質を、「絵」であり「記号」であるアニメーションは内包しうる。

 昨年末公開された『FUNANフナン』がその最適な例である。この映画は、クメール・ルージュ下のカンボジアで、突如として平和な日常を失い、虐殺の危機に生を脅かされた家族のサバイバルの物語を描く。

Les Films d'Ici-Bac Cinéma-Lunanime-ithinkasia-WebSpider Productions-Epuar-Gaoshan-Amopix-Cinefeel 4-Special Touch Studios © 2018

 ドゥニ・ドー監督の長編デビュー作である本作は、監督の母と兄が体験した実話が元になっている。キャラクターデザインをお互いに似せ、「匿名」の人々のドラマとして徹底して描くことで、市井の人々である彼らの必死なる生存(そしてそこに付随する無数の不条理な死)が、よりリアルに突き刺さってくる。

 実在の場所の空気感の表現に長けた本作は、自分がその場にいあわせたような気分にさせもする。カンボジアの山林に吹く「風」(本作の重要なテーマである)を感じたとき、この遠い時代・場所の悲惨な出来事が、本当にあったことなのだということを実感させ、背筋を凍らせる。

『FUNANフナン』:
1975年カンボジア。ポル・ポト率いるクメール・ルージュに支配され、農村へ強制移動される途中で息子と離れ離れになってしまった母親の激動の日々を描く。監督はフランス生まれでカンボジアにルーツを持ち、自身の母親の体験をもとに本作を描いた新鋭ドゥニ・ドー。長編初監督ながら世界中から絶賛された。