4回の別件逮捕と迷宮入り
2020年秋に日本じゅうを騒がせた、北関東における家畜の大量窃盗事件は、実は現在に至るまで真相が解明されていない。
同年10月26日、群馬県警は事件と関係があると踏んで、兄貴ハウスに暮らすベトナム人の不法滞在者(正確には大部分がすでに入管に出頭済みだったコロナ帰国困難者)の男女13人を入管法違反容疑などで逮捕。さらに隣接する埼玉県警によるものも含めて、昨年10月以降に家畜窃盗がらみとみられる摘発を受けたベトナム人は20人以上におよんだ。
だが、大規模な逮捕作戦が展開されたにもかかわらず、最後まで窃盗容疑での立件はなされなかった。なかでも主犯格とみられた“群馬の兄貴”ことレ容疑者は、入管法違反(不法残留、偽造在留カード所持)、道交法違反(無免許運転)、さらに同胞の在日ベトナム人に対する逮捕監禁など、勾留期限が切れるたびに事実上の別件逮捕を繰り返された。
しかし、彼は合計4回の個々の逮捕容疑はすべて認めたいっぽう、家畜窃盗についてだけは否認した。別件逮捕の容疑はいずれも微罪であり、多くは立件されず、彼は4ヶ月あまり後に釈放された。泰山鳴動して兄貴1人の容疑も固まらず、群馬県警の失態とみたほうがよい。
さておき、釈放された兄貴に連絡を取ってみたところ、あっさりと取材に応じてもらえた。そこで私たちは久しぶりに新田上中町の貸家を訪ねたのだった。
俺はシロだよ。やるわけないだろ?
以下は一問一答形式で紹介していこう。
──事実上の別件逮捕が4回も繰り返されるのは、被疑者が日本人であれば社会問題になってもおかしくありません。正確な釈放日時は?
兄貴:釈放は3月3日だ。群馬県警の取り調べでは、暴力や暴言なんかは受けてない。ただ、気持ちのいい態度で接してもらったってわけでは決してないね。
──念のため聞きます。本来の捜査理由だったと思われる家畜窃盗事件は、兄貴は本当に“シロ”ですか?
兄貴:シロだよ。やるわけないだろ? 警察に疑われたが、あれは間違った逮捕だった。俺たちは本庄(埼玉県本庄市)の食肉解体場で肉を買ったんだが、その数日後に捕まったんだよ。だが、血抜きされた豚を買ったときの伝票は残っているわけで、肉は盗品じゃないんだ。仲間の誕生日なんかがあって、肉を多めに買っていただけだ。
──本庄市の食肉解体場に併設されている肉屋ですね。私たちも昨年11月の時点で裏取り取材しています。確かにあの肉屋は、一般のスーパーなんかでは売っていない部位も売ってくれますし、ベトナム人やブラジル人など外国人の御用達みたいです。在日ベトナム寺院の大恩寺にも近い。
兄貴:ああ。しかし、店で買った牛のテールだとかも警察に押収されたぞ。ちくしょうめ。