昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/05/05

やったなら白状している

──別件逮捕された個々の件については容疑を認めていますよね。

兄貴:ああ。まず無免許運転と、不法滞在と……偽造の在留カード所持。俺が持っているカード1枚と、店(当時、経営していたベトナムカラオケ店)にあったカード1枚がそれぞれ捜査で見つかったんだ。どっちも偽造のカードだ。勾留中はどんどん自分の罪が増えていって、頭がおかしくなりそうだったぜ。

──日本にすくなくとも1.5万人以上はいるベトナム人の不法滞在者は、大部分の人が、無免許運転と偽造在留カード所持をやっていますからね。警察がその気になれば誰でも兄貴と同じ目に遭います。ただ、兄貴の場合はほかに、在日ベトナム人の拉致容疑での逮捕もありますね。

逮捕時、ネット上に流れた兄貴と舎弟たちの画像。実は取材過程で兄貴の左にいる茶髪モヒカンの男性にも会ったのだが、正規のビザを持ち日本語もそこそこ話せるという、外見に反して「カタギ」っぽい人であった。

兄貴:ああ。あれは人に頼まれた。在日ベトナム人の不法滞在者の若い女だ。

──この拉致の件は容疑を認めたのに立件されず釈放されましたが、どういう事情だったんです?

兄貴:まあ、借金を取り立ててくれってな……。

──これらの容疑は認めたけれど、豚の窃盗はやってない?

兄貴:豚だけじゃなく、ヤギだのニワトリだの牛だのの窃盗も疑われた。取り調べでは、泥棒が農場の子牛を担いで盗んでいく(監視カメラの)映像を見せられて、「心当たりがあるか」なんて尋ねられたが、何も知らないと言った。

群馬県の焼肉店「朝鮮飯店」で食事した兄貴。肉をつまみながら「俺は肉を盗まない」と主張していた。(筆者撮影)

──結局、家畜を誰が盗んだかは不明のままですね。ベトナム人だとは思われますが、確証はない。

兄貴:俺は警察の連中にはっきり言ってやったよ? もしも自分がやったことならば、俺は誓って何でも白状してやる。俺の処遇も(日本の官憲が)好きなようにすればいい。だが、本当にやっていないことは認めるわけにはいかねえってな。

「日本で逮捕され拷問された」と家族が勘違い

──私が最初に取材をおこなった昨年11月時点で、太田市付近のベトナム人たちに聞き込んでいると、当時すでに「兄貴冤罪説」を主張する人が多かったのを思い出します。あなたが警察に疑われた理由は何だったと思いますか?

兄貴:よくわからない。だが、俺がよくFacebookに30~40人で宴会をやる写真をアップしていたり、ハンドルネームで「群馬の兄貴」なんて名乗っていたものだから、このへんの(ベトナム人の)ボスだと思われたんじゃないか。実際、取り調べではいつもその話を聞かれたよ。くそったれ。

入れ墨はいずれも日本国内で入れたもので、本人によると「片腕で6万円」。和彫りとタトゥーが混在している。(筆者撮影)

──逮捕後、日本のメディアで大きく報じられていたのは知っていますか?

兄貴:俺は留置場にいるんだから知るわけねえよ。それがわかったのは釈放されてからだ。SNSを見て知って、腹が立ったよ。名誉毀損じゃないか。日本側の報道内容が翻訳されて、在日ベトナム人のSNSグループでも興味本位に取り上げられていて、困った。いろいろな噂が流れていた。

──母国の家族は事情を知っていますか?

兄貴:噂はベトナムにも伝わったらしく、故郷の家族が近所の人間から「お宅の旦那さんはなぜ豚を盗んだんですか」なんて尋ねられたみたいだ。一族の評判まで落ちてしまった。ベトナムでは、日本で逮捕されれば拷問を受けると思われているから、家族はいっそう心配だったらしい。