本音を吐露することで覚醒した新妻
6年ぶりの日本選手権制覇を果たした翌日、吉村についてスポーツ紙を中心に「妻で道銀V導く」「昨年5月結婚の吉村紗也香ら歓喜」など、祝福の見出しが紙面に踊った。
「(プロポーズの)お話はもっと前にいただいていたのですが、カーリングでなかなか結果が出なかったこともあり、正直、タイミングは考えていました。(日本選手権優勝という)いい結果でみなさんに知ってもらって嬉しく思います」
10代の頃から常に国内トップチームに所属し、日本を代表するカーラーでありながら、日本選手権を制したのは今年で2度目、スキップとしては初の戴冠だ。吉村個人としても結果の伴わない時間は長かったと振り返る。その間は夫の存在が励みになった。
「カーリングに理解ある人ですし、苦しい時もそばにいて支えてくれて、ずっと自分の味方でいてくれたのは大きかったですね。メンタルのところで助けてもらった」
メンタルの成長はコーチの存在ですでに多方面で語られているところだが、チームのメンバーも吉村の変化を歓迎した。近江谷は言う。
「見ていて大きく変わったなと思うのは、感じたことをそのまま言ってくれるようになった。自分の感情を、抑え込むだけじゃなくコントロールしている印象ですね。みんなの前で出してくれたり、逆にこらえないといけないところでこらえたり。精神的に強くなったのがたたずまいから伝わってきます」
ぽつりと「私、緊張してる」
チームの全員が今季、記憶に残っている象徴的な場面があった。日本選手権の予選にあたる1月の北海道選手権の決勝前だ。吉村はぽつりと「私、緊張してる」と吐露した。
小野寺も吉村の変化を感じ取っていた。
「負けたら終わりの大切な試合ですから誰にでも不安や緊張はあると思います。前はそれを隠していたのかもしれないけれど、今は自分で口に出してくれるようになった。あの時もあの一言でチームもふわっと(安心)したり同じ気持ちになったりするので、それには救われました。あとは何よりも自信を持って楽しそうにプレーしていますね」
それらの意識は本人の中にもあるようだ。
「これまでは不安や緊張などの感情を言葉に出さないほうがいいと思っていたんです。でも、北海道選手権の時にふと言葉に出してみようと思って、初めて口にしたら、自分でも状況を受け入れることができた。メンバーも笑ってくれたし、それで楽になりました。世界選手権でもそんな場面はあると思うので、そういう会話はもっとあっていいと思っています」
今大会は無観客大会ということで、テレビ中継でも選手の声がクリアに聞こえる。吉村をはじめ選手のやりとりがチームの調子のバロメータになるかもしれない。