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「トライアウト」合格のシンデレラガール

 その吉村が「20年近いカーリング人生の中でほぼ初めての後輩」という存在ができた。それが昨季から新加入したフィフスの伊藤彩未(19)だ。

フィフスの伊藤彩未。好きな食べ物はいちご。「日本選手権後に、職場の方からお祝いで『ひのしずく』という銘柄をいただいたら感動する美味しさでした。次も何かお祝いごとがあったら、自分でも購入したいと思います」 ©️JCA IDE

 青森県下一の名門・青森高校入学時には、首都圏の大学に進学し報道関係の仕事を志望していたが「カーリングを続けたい思いが強くなった」と、2019年12月に開催された、カーリング界では世界的にも珍しいトライアウトを受験。3日前に札幌入りし、リンクを見学して、「自分が投げているイメージを高めた」などと準備と体調管理に努めた。

「前日は6時に起きるつもりだったのですが、緊張していたのと、朝が苦手で寝坊しないかが不安で2時間おきくらいに目を覚ましていました。前日に十分緊張していたおかげで、当日は緊張せずに臨むことができました」と当時を振り返ってくれたが、見事、十数倍の難関を突破し名門の一員となった。

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まだ19歳ながら“持っている”感

 ルーキーイヤーだった今季から積極的に起用され、練習試合などでもリードとして氷上に立つと日本選手権では東北代表・青森CAの選手として出場した母の薫さんと母娘対決を実現させるなど、まだ19歳ながら“持っている”感も漂う。

 彼女の存在について「若い選手、それも道外からの選手を迎えることで4人にとってもそれぞれの役割を見つめ直す機会になったと思います」と松井浩二トレーナーが語ったように、チームに刺激をもたらすとともに、ポテンシャルと高い技術を備えながら、勝ち切れなかった古豪復活の一助になったことは間違いない。

「みんな本当に優しくて、分からないことは誰に聞いても優しく答えてくれます。といっても私もチームの一員なので、甘やかしてくれているというより、いつも温かく見守ってくれる感じです」

 本人はそう語るが、青森から札幌を経由して、世界のアイスへ。このシンデレラガールのサクセスストーリーは五輪まで続くのか、大きな見所のひとつだ。

バブル方式下での世界選手権となったが、「試合ができることが嬉しい」(小野寺)とポジティブに大会を楽しんでいる 写真提供:(公社)日本カーリング協会

 世界選手権クオリファイのボーダーラインは先月、同じチーム数とレギュレーションで競った男子大会同様に7~8勝になるだろう。

 日本時間5月5日午前10時時点で、日本は2勝5敗の11位だ。ドイツ、韓国、イタリア、カナダ、エストニア、スウェーデンとの6試合を残し、全勝できれば突破は現実的になってくる。最低でも5勝がマストだが、そのためにはカナダやスウェーデンといった強豪に競り勝たなければいけない。

 難しい状況にはなってきたが、吉村はアメリカ戦の惜敗後、「最後までしっかり予選突破を目指して戦う」と言い切った。勝てない時期も自身の個性と可能性を信じて強化を継続してきた彼女たちには、逆境を跳ね返す力は備わっているはずだ。個性派集団の巻き返しを切に願う。