単行本累計発行部数1800万部の伝説的漫画『闇金ウシジマくん』(小学館)の作者・真鍋昌平さんの最新作『九条の大罪』(小学館)が最高潮に面白い。主人公は、裏社会が絡む案件を扱う弁護士・九条間人(くじょうたいざ)。社会の暗部を生々しく描き出す真鍋さんが考える「法とモラル」とは。新作で描きたい「リアル」についてもお聞きした。(全2回の1回目。2回目を読む)
(取材・構成:相澤洋美、撮影:今井知佑/文藝春秋)
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読者の心を引っかき回したい
──『九条の大罪』は、第1話から強烈なストーリーで、SNSでも大きな反響がありました。主人公の九条が弁護したのは、飲酒運転で親子をひき逃げした半グレです。九条の弁護によって、自転車に乗った親子をひき逃げした男が執行猶予を勝ち取る一方で、父親を亡くし悲しむ遺族は金銭的にも大損をするというストーリーは、知らないと損をする恐ろしさを伝えてくれているようにも感じます。
真鍋 論争を呼んだのは、「交通事故」というテーマが、明日実際に自分の身に起こっても不思議ではない身近な問題だったからだと思います。
「なんであんなヤツの弁護をするんだ」「胸くそ悪い」という意見もたくさんいただきましたが、法律の知識がなく弁護士をつけなかったために「損をする」ことは、実際の世界でも起こり得ることです。
「正義が勝つ」というハッピーエンドを作るのは簡単ですが、一人の漫画家が作品のなかで正義をふりかざしたところで、社会課題や問題は何も解決しません。貧富の差が拡大し、社会のきしみが肥大化している現代だからこそ、そのきしみをそのまま描くことで読者の心を引っかき回したい、という思いでこのテーマを描きました。
──社会の暗部を描くのに「弁護士」をモチーフにした理由は。
真鍋 まだ「ウシジマくん」の連載をしていた時に、取材対象者たちからよく弁護士の話を聞いたんです。半グレ、ヤクザといわれるような犯罪に関わる人たちはしょっちゅう警察のお世話になるので、どの弁護士がいい、という情報が出回っているんです。「あの先生は動きがいい」「あいつはダメだ」などと噂されている弁護士に会いに行って話を聞くうちに、フェルディナント・フォン・シーラッハの『犯罪』みたいな面白いストーリーができるかも、と考えるようになりました。
漫画でもドラマでも犯罪者側から見た弁護士ものはまだ描かれていなかったので、自分ならではの弁護士物語が描けるかも、と徐々に構想が固まっていきました。